※羽川さんまじブラック









あの子を見てない?知らない?と問えば、知らないわ。と返ってくる。貴女の大切なひとでしょう?と問えば、彼女は眉一つ動かさずそうよとだけ答えた。


この人は本当に不思議な人。感情の起伏がまるでないもの。まあ、これは今も昔も変らないのだけれど。いいえ、昔と言うのは間違いね。高校に入ってからと言うべきかな。


貴女は彼を本当に愛しているの、なんて陳腐な言葉を吐いてみた。その言葉の返事に自分自身が傷付くのは目に見えているのに。私ってば馬鹿ね。私の吐いた言葉で、今まで眉一つ動かす事の無かった戦場ヶ原さんの表情が変わった。驚いたような表情だけれど、それは限り無く無表情に近いそれ。


「ええ、愛しているわ」


戦場ヶ原さんは静かに答えた。ああ、きっと同じ質問を阿良々木くんにしたら、きっと貴方も同じ事を言うのでしょうね。貴方はなんて憎い人なんでしょうね、こんなにも愛されているなんて、ねえ。


「でも、貴女は辛いんじゃないの?阿良々木くんは優しい、いえ、優しいなんて言葉で片付けられないくらいのお人好しだから」


「そうね。でもそんな所も好きよ」


「戦場ヶ原さんは阿良々木くんの前以外だと随分と素直なんだね。かわいいなあ」


「羽川さんは阿良々木くんの前以外だと随分と意地悪なのね」


「そんなことないわ」


「そうかしら」


戦場ヶ原さんの言う通り。私は猫のようにしたたかで、意地悪だ。こんな自分、認めたくないけど、仕方ないよね。


かたり、私と戦場ヶ原さん以外は誰もいない教室に物音が響いた。気が付いたら、戦場ヶ原さんはこちらに刃をめいいっぱいに伸ばしたカッターナイフをこちらに向けていた。窓から差し込む夕日に刃がきらりと光る。


「暴力では何も解決しないよ?戦場ヶ原さん」


「いいから阿良々木くんを返しなさい」


「あら、もう分かってたんだ」

にこりと笑うと、代わりに返ってきたのは鋭い眼光。私はそれに怯む事なく笑った。きっと今の私の笑顔はとても汚くて狡くて醜いんだろうなぁ、なぁんて思いながら。でも、その一方で、私は欲しい物を手に入れた優越感と彼女を追い込むことで得られた快感に身を震わせたの。なんて卑怯なんでしょうね。











少年Aの失踪に寄せて







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