「ねえ知ってる?阿良々木くん。殺意と愛情は裏返しなのよ」

「いきなり怖いこと言ってんじゃねえよ!」


「まあ猿以下の知能しかない脳を持ってる阿良々木くんにはこんな難しいこと言っても分からないわね。言うだけ無駄だったかしら」


「酷ぇ!」


「あら意外と楽しそうね。阿良々木くんはマゾだったのかしら」


「僕はマゾじゃない!」


とまぁ実にどうでも良い会話をしながら僕はノートにつらつらと文字と数字を書いていく。教科は得意の数学だ。戦場ヶ原に勉強を教えてもらうのも、こうやって毒舌を吐かれるのも、今に始まったことじゃない。


戦場ヶ原は彼氏という存在との接し方がきっと分からないだけだ、と最近は勝手にそう思うようにしている。じゃないと僕の心がもたないだろ?僕だって一応はデリケートな所だってあったりするのだ。


ねえ、阿良々木くん。


なんだよ、ガハラさん。


木造アパートに備え付けの電灯はちかちかと何とも頼りない灯を灯し続ける。戦場ヶ原は、おろしている長い髪を、さらりと後ろへ流すようにして掻き分けた。シャンプーの匂いだろうか。花のような仄かな香りが僕の鼻孔を掠めた。髪を後ろへ流す事によって露になる白い首筋。噛み付きたくなるような衝動に駆られてしまいそうになる。実際僕が吸血鬼のままだったら噛み付いていたかも知れない、なんて思いながらその衝動を必死に押さえ込んだ僕は、そっと手元のノートに視線を落とした。


ノートの上に並ぶ数列はただ無機質で、それ故に何処か虚しい。戦場ヶ原は、ゆっくりと息を吸って、ただ並ぶだけの数列のように無機質な無表情で、静かに言った。


「ねえ、阿良々木くん、死んでよ。いえ、私に殺されて頂戴」


「……話が唐突過ぎないか、戦場ヶ原」


「あら、分からないの?阿良々木くん」


「……分かってるよ、殺意と愛情は裏返しなんだろう?」


「阿良々木くんにしては素晴らしい理解力ね。猿以下の知能で良く出来たわね。ご褒美に苦しくならないように一瞬で殺してあげましょう」


「僕を殺す前提で話が進んでないか!?戦場ヶ原、そんな歪んだ言い方するんじゃなくてちゃんと言ってくれよ!」


「仕方ないわねえ、愛に飢えてるそんな阿良々木くんにはちゃんと言ってあげましょう。好きよ、阿良々木くん。愛してるわ」


たしかにちゃんと言えって言ったのは僕だけれども。こんな真正面で顔を赤らめてこんな事を言うのは少しばかり反則ではなかろうか。戦場ヶ原、お前は真正のツンデレに違いない。


心臓から押し出される血液と共に流れる熱は、全身を回りじわじわと僕を犯す。気が付いたら僕はのぼせるようにして机の上に突っ伏していた。ああ、戦場ヶ原。僕も愛しているよ。心の中でそう呟いて、僕はふと訪れた幸福に身を預けた。


「……この程度で墜ちるなんて、阿良々木くんも甘いわね」














愛を込めて死ねと言う





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