乾いた銃声が何度も何度も部屋を響き渡る。放たれた弾丸は一寸の狂いも無く的確に的の中心を貫いた。


昔見た時よりもずっとずっと逞しくなった背中を見てアタシは欠伸をひとつ。いつの間にか追い越されていた身長はもう10センチ程差がついてしまった。ビビリの癖に図体ばかりでかくなりやがって。


「……なに欠伸なんかしてるんですか」


「んぁ?そんなもんアタシの勝手だろ」


拳銃をばかばか打ちながらのどうでもいい会話。それでもあいつの弾は絶対に的を外さない。その完璧なまでの銃の使い方といい、真面目さと逞しさが伝わって来る背中がどうしても気に食わなくて。その妙な気持ちを噛み締めるようにアタシはまた欠伸をして口を閉じる。本当はそんなに眠い訳じゃない。


「ビビリメガネのくせに」


つい口から出た言葉。実にみっとない劣等感。たかが身長を越されただけでなんだ、アタシよりあいつの方が大人になってしまったのがなんだ、別に悔しい訳じゃない。悔しい訳じゃないのに。


アタシが言葉を発した瞬間、耳を軽く刺すような金属音がした。雪男が弾を外した音だった。鉄製の厚い壁に当たった銃弾が地に落ちて静かに転がる。


「僕はビビリメガネではありません」


雪男はこちらへ振り返ってはっきりとそう言った。その目には明らかに怒りの色が見える。普通の人なら身を竦めてしまうように恐怖を感じるのだろうが、不思議な事にアタシはその怒りの色を見て安心しているのだ。ビビリという言葉に反応する、昔と何ら変らない雪男の姿に。我ながらなんと馬鹿馬鹿しい話だ。


「ビビリメガネはビビリメガネだろ、にゃはは!」


「……勝負」


「は?」


「……前にやった、あの勝負、まだ決着が付いてませんね」


そこでアタシは気が付いた。気が付いてしまった。否、こんな簡単な事、実はとっくの昔に気が付いていて、その現実にずっと目を逸し続けていただけなのかも知れない。どんどん大人になる雪男に、大人になろうと背伸びする雪男に、寂しさを覚える自分に。悔しい訳じゃない、そう思った自分はやはり正しかったようだ。ここでアタシは敢えてとぼける事にした。


「勝負?何の事かにゃ?」


「僕が勝ったらビビリメガネと言うのを止めてもらって、シュラさんが勝ったら僕がご飯を奢る、そういう勝負です」


結局あの時は、兄さんに邪魔されたけど。


雪男の目は本気だった。そして何処か、楽しそうでもあった。そうでなくっちゃ、面白くない。じゃあ、アタシも本気を出してやろうじゃないか。お前はまだ餓鬼のままでいーんだよ、ばーか。


「ふん、アタシはこれからもお前の事、ビビリメガネって呼んでやんよ」


「なら僕は、シュラさんにもんじゃでも奢ってもらうことにします」


互いの視線が絡み合い、弾けた。本気の勝負は、こうでなきゃ、面白くない。











音速乙女!






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