※山田が可哀相な感じに…そして相馬が酷い








相馬さんは山田のお兄ちゃんです。


そう言って決めたのは紛れも無く山田自身。なのに、山田は今、相馬さんをお兄ちゃんにしてしまった事をとても後悔しています。


大切にしたい人が出来た。


普段秘密主義であまり自分の事を話すことの無かった相馬さんがある日山田にこんな事を言ったのです。大切にしたい人、という事は好きな人が出来たのでしょうか。或いは相馬さんの事ですしその人と晴れてお付き合いを始めたのかもしれません。山田は妹としてそれをお祝いしなくちゃいけないのに、とても祝う気にはなれなませんでした。それどころか、にこにこと笑顔でそう言った相馬さんに対して妙な苛立ちと悔しさが心の奥からじわじわと滲み出てきたのです。それと同時に視界がぐにゃりと歪んで行きます。潤んだ瞳からぽたりと雫が落ちました。それは制服のエプロンを少しずつ湿らせて行きます。泣いちゃだめだ、相馬さんをお祝いしなきゃ、そう思っていたのに山田は溢れて零れる涙を止める事ができませんでした。


相馬さんは山田が泣いているのにいつものように慌てる様子も無く、ただ無表情で山田を見ていました。それがなんだかとても辛いことのように思えて、まるで相馬さんが、兄妹ごっこはもう終わりだよ、そう言っているような気がして山田は余計に寂しい気持ちになりました。


どうしてこんなにも胸が締め付けられるのでしょうか。どうしてこんなにも辛くて、悲しくて、寂しい気持ちになるんでしょうか。山田はまだ相馬さんの妹でいたい。妹だったら彼女がいたとしても出来る筈なのに、心の中の自分はそれは駄目だって言うんです。もう意味がわかりません。


最初から、こんな辛い想いをするのなら山田は相馬さんをお兄ちゃんにしなければ良かったのでしょうか。後悔とよくわからない気持ちがぐるぐると頭の中を巡ります。溢れ出した涙はまだ止まりません。


しばらく動かずに山田を見ていた相馬さんがふとこちらへと歩み寄ります。ああ、このままいつものように抱き付いて甘えたい、そう思うのに身体は動きません。


そしてすれ違いざま、相馬さんは静かに呟きました。


「今更遅いんだよ、山田さん」


その言葉は山田の鼓膜を揺らし、心に深く深く突き刺さりました。山田はただ泣くしかありませんでした。相馬さんを追いかけることも、泣きやむ事も出来ないまま、すれ違いざまに見た相馬さんの辛そうな表情を、何度も何度も思い出していたのでした。











悲哀にまみれた恋の話






title:告別