北海道とはいえ夏の暑い日。早上がりだった俺はうきうきと更衣室を出ると突如現れた山田さんにいつもの如く捕まってしまった。そうして紆余曲折あった後、何故かは分からないが気が付いたら店の近くの公園にある自販機のジュースを彼女に奢るはめになっていたのだ。ジュースごときでとやかく言うつもりはないけれど無駄お金を消費した上に時間まで奪われるなんて。そんな不幸な俺を誰か慰めて欲しい。


様々なジュースがある中で山田さんが選んだのはラムネ味の炭酸飲料だった。意外と普通の選択だ。そしてそのまま公園のベンチに座った彼女は缶をあけようとフタに手をかける。俺も流れでそのベンチに腰掛けると、隣りからぷしゅっといい音がした。


こくり。こくり。山田さんの白い喉が気持ちの良い音を立てる。俺が買ってあげた炭酸飲料は瞬く間に山田さんの腹の中へと消えて行った。


「そんなに一気に飲むとお腹こわすよ〜山田さん」


こっちまで飲み物が飲みたくなってしまうようなその豪快な飲みっぷりを見てなんとなく呟くと、彼女はぴたりと動きを止めた。と同時にみるみる青くなる顔。


「山田……本当にお腹が痛くなってきました……」


「……だから言ったのに」


すると山田さんはジュースを置いてお腹をさすりながら足をぱたぱたと動かした。お腹が痛いと言う割には元気そうにも見える。そして、ふと思いついたように顔を上げた。


「……せっかく奢ってもらったのに、山田、もうお腹痛くて飲めません。もったいないんで相馬さんがこれ飲んでいいですよ」


「え」


ずいっと炭酸飲料の入った缶を俺に押し付けて来る山田さん。振動で中の炭酸飲料がちゃぽん、と音を立てた。彼女の視線は何故か期待の色を含んでいてすこしきらきらしている。


俺は困った顔をしていいよ、山田さん。と言いながら缶を押し返した。再び炭酸飲料がちゃぽんと音を立てる。不思議と誰もいない公園ではその音はやたら大きく聞こえた。


「山田の飲んだやつですよ!?いらないんですか!?」


「その言い方止めようか」


山田さんは最初えー、と頬を膨らませたかと思えばその表情をころりと笑顔に変えた。なんだか楽しそうににこにこと笑っている。怒っているのか喜んでいるのかよくわからないな。


「冗談ですよ!相馬さんに買ってもらったのに山田が残す訳ないじゃないですか!」


そう言って彼女は再び炭酸飲料をごくり、ごくりと豪快な音を立てて飲み始めた。そして、少ししてそれを飲み干したらしい山田さんは缶から口を離してぷはー、と一息。炭酸飲料の缶についていた水滴が太陽の光を反射させてきらりと光る。


「ん?相馬さんなんでそんな怖い顔してるんですか?」


「んー、なんかよく分かんないけどもの凄く悔しい」














この世で一番美味しい夏の味







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