拍手log4(相馬と山田)
2012/04/01 00:01

ぐるぐる。ぐるぐる。もやもや。もやもや。悩み事のプロである山田は今日も今日とて悩んでいます。悩み多き年頃ですからね。山田が何かで悩む事ぐらい日常茶飯事な事なのですが、今日のはちょっとだけ違いました。今日の悩み事は特色なもののようで、いくら悩んでも答えが出て来ないのです。いえ、この先いくら考えても答えが出る事はきっとないでしょう。何故なら何に悩んでるのか自分でもわからないからです。ただ頭の中がもやもやするのでなんとなくこれは悩み事だろうと結論付けたものなので正直本当の悩み事かどうかも怪しいです。だから、この悩み事はなんだろう、と考えるのが今日の悩み事でした。悩み事が何なのか悩む、なんておかしな話ですよね。



取りあえずワグナリアの女性陣に相談してみると、皆揃って難しそうな顔をして一緒に悩んでくれました。あ、店長は八千代さんのパフェに夢中だったので適当にあしらわれてしまいましたが。そして相談に乗ってくれた方々はこう言いました。



「その、もやもやが始まったのは何時からなの?」



「もやもやが出てきた原因が、葵ちゃんの悩み事なんじゃないかな!」



山田はじっと床を見つめて考えます。心がもやもやしてきたのは、そう、昨日のバイト終わり、帰宅する少し前の相馬さんを見た時でしょうか。いや、正確に言えば、相馬さんが持っていた荷物を見た時。僅かに開いていたファスナーの隙間から見えた、明らかに相馬さんのものではない、ピンク色の包装紙のそれ。世間ではバレンタインというイベントが過ぎたばかりの平日。相馬さんがそう言ったものを持っていても不思議ではありません。包装紙から見て、あれは山田があげたものでも、八千代さんがあげたものでも、種島さんと伊波さんが一緒に作ったものでもありませんでした。それを確認した時、なんとも言えない嫌な気持ちになったんでしたっけ。明るいピンク色のそれは、その時の山田には汚ならしいものにしか見えません。本当は汚なく醜い感情を抱いているのは山田の方なのに。ああそうだ。山田はその時慌てて相馬さんに駆け寄り、荷物が開いてますよと声を掛け、まるで証拠を自分の頭の中で湮滅するかのように、嫌なものの存在を無かったものにするかのように、乱暴にファスナーを閉めたような気がします。あまり覚えていませんし、思い出したくもありませんが。


どうしてもやもやしているのか。山田は何に悩んでいるのか分らなかった訳では無かったのです。ただあれを見てしまった時に嫉妬という感情を抱いてしまった自分が嫌で、目を逸し続けていただけだったのです。



皆が急に黙り込んでしまった山田を見て、心配そうな声を掛けてくれました。デイジーをぎゅっと抱き締めて、山田は考えます。どうしたらいいんだろう、と。ちっぽけな山田の脳みそではこの感情をどう扱ったらいいのかわからないのです。だから、山田は。



「相馬さん、」



「なにかな山田さん」



「相馬さんは、嫉妬、した事がありますか?」







その時相馬さんが、少しだけ嬉しそうに笑ったのは、多分気のせいじゃないと、山田は思うのです。