帝人と杏里
2012/01/14 15:05



 放課後。まだ日も長く夏の太陽の光が容赦なく差し込んで眩しいくらいの教室。
 その場所でクラス委員として園原さんと仕事をしていた僕は、ふと、園原さんが窓の外に目をやっているのが目に止まった。
 光に照らされる彼女の横顔からは何処か哀愁じみたものを感じ取る事が出来る。園原さんがこういう表情をするのは珍しい。
「どうしたの? 園原さん」
「いえ……なんでもないんです」
 僕に呼ばれてこちらを振り向いた彼女は静かに笑うだけだった。眼鏡の下にある細められた目は、ちっとも楽しそうには見えないのに。
 彼女が見ていた方向を見やる。そこには大きな水溜まりが広がった校庭があるだけだ。雨はすっかり止んでしまってはいるが、校庭がこんな状態の為か運動部が活動している様子もない。
「綺麗、ですよね」
「え?」
 彼女は再び目を細め、大きな水溜まりを見やる。そこには、夏の青空が綺麗に映し出されていた。鏡のように水溜まりに映る青はどこまでも澄んでいる。
「……そうだね」
「私も、あんな風に……」
「?」
「いえ、やっぱりなんでもないです」
 僕はそれ以上追求するのはやめた。というかできなかった。
 何故なら彼女の表情がほんの少しだけ、悲しそうに歪んだのに気がついていたからだ。どうしてだろう。力になってあげたい。そう思うのに僕はそんな彼女に慰めの笑顔をつくる事しかできなかった。
 僕は非力だ。肝心な時に彼女の力になる事はできない。そんな自分が虚しくて僕は拳を強く強く握りこんだ。それこそ爪が手に食い込んで血が出そうになるくらいに。
 そんな僕の葛藤に気が付いていたのか更に笑みを深くした彼女に、僕はどうしようもなくいたたまれない気持ちになって、そっと、その笑顔から目を逸らしてしまった。








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あめこは、青空のまぶしい教室 が舞台で『水たまり』が出てくる切ない話を3ツイート以内で書いてみましょう。 http://shindanmaker.com/139886

より帝杏でした。ついったに載せたのより長めのものを載せましたが、実際ついったの方でも3ツイートで収まりませんでした。あといつもと文章の書き方を変えてみたり。


杏里が言おうとした言葉は考えてはありますが皆様のご想像にお任せします。