過去拍手その1(ライコト)
2011/08/08 15:30



愛してる、だとか、好きだ、なんて、とても薄っぺらくて陳腐な言葉でしか無いと思っていた筈なのに。


「好きだよ、シルバー君」


目の前にいるこいつに言われると、それが陳腐な言葉等では無く、もっと特別な物に聞こえてしまうのは何故だろう。


「…俺、も、」


好きだ、とまでは言えなかった。ここに来て恥かしくなるとは、なんか情けないが仕方ない。愛情だとか、恋だとかいう初めての感情にどう対処したらいいのか分からないから。


奴は俺の様子を見てとても嬉しそうにふわりと笑った。それと同時に心地よい風が辺りを吹き抜ける。栗色の髪が揺れた。


「だーいすき!」


目を閉じればコトネの心臓の鼓動が聞こえるぐらいに強く、ぎゅっと抱き付かれて、ふと思う。


愛してる、好きだ。
陳腐でありふれてはいるけれど、大切なこの言葉を、いつか自分の口で言ってみたい。そうひっそりと思って、俺は好きだの「す」の字も言えないくらい奥手だった事に自分自身で気が付いてしまい、思わず嘲笑の笑みを浮かべてしまった。