シキミとベル
2011/05/28 19:32




何気ない言葉でも、心がほんのりと暖かくなったり、不思議と笑顔になっちゃったりすることってありますよね。


「そんな言葉を、アタシは物語に書き留めて行きたいなぁって思うんです」


ぽん、と傍らに置いてあった原稿の束を軽く叩いてシキミさんは言った。それって凄く素敵だなぁ。きっとシキミさんの物語を読んだらあたしも明るい気持ちになれるんだろうなぁ。なんて思いながら、あたしはシロップと少しのミルクが入ったアイスティーを掻き混ぜる。からん、と氷がぶつかる音が響いた。


「…でね、ベルちゃんにこの原稿を読んで欲しいの」


「あたしに、ですか?」


「そう、ベルちゃんに」


にこり、そんな効果音がぴったりの笑顔でシキミさんはずずいっと原稿の束をあたしの方へと押しやった。でも、驚きのあまりあたしはその原稿を素直に受け取る事が出来なくて。呆然とそれを見つめている事しか出来なかった。


「い、いいんですか?」


「うん、ベルちゃんがこの物語の最初の読者なの。遠慮無く読んでね」


「あ、ありがとうございます……あ、あの」


「ん?」


「どうして、あたしが最初なんですか?」



疑問を投げ掛けるとシキミさんはすこしも考える素振りも見せずに、こう答えた。





あなたは、人と、ポケモンを幸せにできるを何か持ってるって直感で思ったから。




だから、ポケモンと悲しい過去を持つ一人の青年との幸せを描いたこの物語を、あなたに最初に読んで欲しいの。