「佐藤くんは轟さんの事が好きだもんね」
「…は?」
なんの前置きもなく不意にそう話し掛けると実に間抜けな声で返事が返ってきた。
「あれ?違った?」
「違……わ、ねぇけど…」
あ、素直に認めた。珍しい。しかも顔を真っ赤にしちゃって…可愛いなあ。そんな事言ったらきっと怒るだろうから言わないけど。
「なんだよいきなり」
「いや、ただの確認だよ」
にっこりと微笑んで答えれば佐藤くんは訝しげな表情を見せた。
「確認?な」
「……あ、仕込み残ってるの忘れてた!」
先の言葉を聞きたくなくて、答えたくなくて無理矢理言葉を遮り本当は残っていない仕事を作り上げた。
「はぁ?」
「急いで終わらせてくるね」
「ちょ…相馬!?」
あからさまだっただろうか。
…だったろうなあ。佐藤くんの表情は明らかに不信感が色濃く出ていたから。
佐藤くんは轟さんの事が好き。
そう。ただの確認。
俺の気持ちが届かないという事の確認。
佐藤くんは自らの恋を実らないと思っているかもしれないけど、きっとそれ以上に俺の恋は実らないんだろう。
そう考えると途端に強烈な絶望感が訪れる。
そんな、今更。
初めからわかっていた事なのに。
ちゃんと理解していたはずなのに。
それなのに…どうしてこんなに哀しくなるのだろうか。
「相馬」
がちゃり、と休憩室のドアが開く音がした。それと同時に背中越しに声を聞く。
「っ!?さ、佐藤くん…!?」
「…何泣いてんだよ」
指摘されて初めて自分が涙してるのに気付いた。女々しい。実に女々しい。
制服の袖でそれを拭き取り、言葉を紡ぐ。
「……佐藤くん、不毛な恋をしてるから…かな」
「殴るぞ」
「わぁ!嘘っ!嘘だから!!」
正しく言えば「俺が佐藤くんに不毛な恋をしてるから」かな。
「第一…不毛なんて決め付けんなよ」
「え、」
「今は駄目でもこっち振り向かせたもん勝ちだろ」
「……そうだね」
驚いた。まさか佐藤くんがそんな事言うとは思わなかったよ。
「じゃあ、俺もそうする」
それだけ言うや否や、俺は自分より少し高い位置にある唇にそっと口づけた。
「!?」
佐藤くんは頭の上に疑問符を浮かべながら、顔を真っ赤に染めてタバコも無いのに手で口元を覆っている。
「佐藤くんを俺の方に向かせるから。佐藤くんが轟さんを振り向かせる前に」
だから覚悟しててね。