「おはよ」
「!?お…はようございます!」
「なんで敬語なの?」
「わ…びっくりして…」
取っ手のひんやりした玄関のドアを開ける。その先で幼なじみの蟻に会った。
中学を卒業してから、だいぶ経っていた。家は隣同士だけど、そういえば全く会っていない。
せっかくだから、とちょっと座って話をすることになった。何がせっかくなのかはわからないけど嫌じゃない。嫌じゃないけど、なかなか目が合わせられないのは、親しい人と久しぶりに会った小恥ずかしさのせいなのか。卒業前と同じように淡々と話す蟻を見ていると、変に意識しているのは僕だけだと思い知った。
「ねえ夏樹」
「ん?」
「覚えてるかなあ」
「何を?」
「大きくなったら一緒に暮らそうって言ったの。うんと小さい頃」
「…へ!?し!知らない!」
「嘘だよ、うそ。そんなロマンチックな展開ないない!」
「な…何もうびっくりしたなあ」
「夏樹も相変わらずだな」
蟻はクスクス笑う。やっぱりこの人には余裕がある。いや、むしろ僕に余裕がないのがおかしいのに、だって幼なじみとただ話してるだけなんだから。なんだか落ち着かなくてさっきからずっとマフラーの端をいじっていた。落ち着け、落ち着け…
「でも…そういうかわいい約束のひとつやふたつ、しておけばよかったかも…ね」
そう言った途端、僕の顔は俯いていた。さらっととんでもない変なことを言ってしまった気がする。人間焦ると何を口に出すかわからない。恥ずかしいな、蟻はなんて言うだろ……
「今すればいいじゃん」
僕の余裕のない理由は今はっきり明らかになった。
小さな約束