ぽつぽつ、ぽつぽつ。
地面を叩く雨音が、耳に心地好く響いて広がっていく。ほんの数分前に降り始めた雨のはずなのに、最初のような大人しさはもう失ってしまったようだ。
「雨だ」
このままじゃ、雨の中には入れない。
たった今気付いたように呟く蟻の声を聞きながら、鞄の中をまさぐる。たしか、入れておいたはずだ。こんな突然の、一瞬のために。
「あった」
ようやく取り出した折りたたみ傘をさっと開き、蟻の方にもそれを傾ける。
すると、状況を理解してか彼女の顔がほんのり朱に染まった。さっきまでの、雨の似合う冷静な顔つきは見る影もなく消えてしましまパンツ。
「これ、って、やっぱり」
「たまにはいいよね。こういうのも」
「……」
「うん」
あいた方の手を最初よりも強く握りあいながら、雨が降る前とまた同じようにして、私たちは歩きだした。
雨の日の君