ミラはとっても魅力的な女の子だった。強くて優しくて美人で、みんながミラのことを完璧だと思ってる。隙がないって。だからみんな、まさかミラが、怖がられてることを気にしてるなんて考えたことがないって顔で、ワープ女がくるぞ、という言葉を脅し文句に使うのだ。「気にしてなんていないわ」「そうかな?」「…………若干、よ」「ミラってば、可愛い!」繊細で、パンケーキが好きな、可愛い女の子。ミラってそんな子。知らないでしょう?でも誰にも教えてあげないの。だって私が、ミラの一番のお友達でいたいから。こんなミラの一面が知られちゃったら、みんなミラと仲良くしたくなる。私がそうだから、きっとそうなの。そしたら大して強くも美人でもない、おまけに泣き虫な私なんて、隅っこに追いやられてしまうに決まってる。だから、他の誰かがミラの魅力に気付いてしまうまで。どうか許してね、ミラ。

「ところで、ナマエ。最近仲良くしてる彼はどうなの?」
「えっ、なに、何の話?」
「ふふ、嘘よ。ナマエにはまだ早かったわね」
「ミラ酷い……」
「……ねえ、ナマエ。約束しましょう?」







約束をしましょう。嘘はつかないわ。『影の窓』に誓っても良い。裏切るぐらいなら、針に貫かれて死んだほうが良いの。

いつか私が、あなたにピッタリな黒トリガーを見つけてあげるわ

でもこれは、一方的な内緒の約束。



貧弱、下心、品がない。家柄が悪い。また下心。明け透けな媚、それから――死の匂い。
私のたった一人の親友に近寄る男は、その先の欲に目が眩んでいるばかりか、死の匂いを持つ者ばかりだった。

「前とっても親切にしてくれたの」
「まあ、ナマエ。またそんなに泣いて」

優しいナマエは、その不幸一つ一つに心を痛めて涙を零した。あんな男たちの為に流す涙など、必要ないのに。そんなナマエのことを泣き虫だと笑う人もいたけれど、雨のようにはらはらと落ちる雫を拭いながら、私は。

――私は、なんて美しいのだろうと思った。
約束を。約束を守らなければ。


"戦争をすれば、多かれ少なかれ、失うものがある"
大人になった私に突きつけられた現実は、思ったよりしっくりと私の中に根を下ろした。誰かが帰ってこなかった、なんて結末も珍しいものじゃない。そして、そんな些細な顛末に、いちいち気を取られている暇もない。勝てば、失うものより得られるものの方が多いのだから。「少し怖くなっちゃった」「大丈夫よ、ナマエ」 私の大切なたった一人の親友。優しいあなた。 ああ、彼女が好きだと言うのなら、その身と命をかけて、彼女を守る武器でも残したらどうなの。そんなどろりとした感情が生まれたのはいつだったか、もう忘れてしまった。
また、失敗作だったのね。

「あっ、ミラ」
「ナマエ」

廊下で彼女と話す男を見た。すうっと瞳が冷たくなるのを感じながらナマエに近づくと、ナマエはすぐに私に気付いてくれた。そんな些細なことに安心しながら笑みを浮かべると、彼女の関心はもう名前も知らない男より私に向いていた。「どうしたの? ミラ、ご機嫌ね」「そうかしら」覚えてないということは、随分と下の位なのだろう。そこにいるもう一人のことなどいないかのように振る舞うと、男は身を小さくしてそっと離れた。彼女の近くにいた影が遠ざかっていくのを、なんとなく目で見送る。

「ミラ?」
「……なんでもないわ」
「……ほんとうに?」
「ええ。……ねえ、ナマエ。約束よ。"貴女に好い人ができたら、私に教えてね"」
「わ、分かってるわ……」

少し頬を赤く染めた、かわいいナマエ。愛しいあなた。
あらあら、大変。また、死の匂いがするわ。


/いつか私が、あなたにピッタリな黒トリガーを見つけてあげるわ。あなたが誰かのものにならず、ずっと私の側に居てくれますように。



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