自分が身を置いている組織は世の中の人よりも幾分死が近い場所にあることを再確認する。お葬式に出ることも増えた。
満開の桜並木を抜けて式場に入ると、受付の見知らぬ大人に学生は制服でも良いんだよと声をかけられた。お気遣いありがとうございます、と頭を下げ足早にその場を後にする。彼女の大切な人のために喪服を着て何が悪いのだ。何も知らないくせに口出しをするなと内心苛立ったが上手くやり過ごした。ボーダーに入ってからというもの、愛想笑いが上手くなった。人混みを避けながら彼女を探す。見慣れた後ろ姿を見つけ駆け寄ると、彼女がうずくまって泣いていた。あまりにも儚げな姿は今にも桜に攫われてしまいそうで怖くなって抱きしめた。まるでこの場所だけ時が止まっているような、そんな気がした。




「人って二回死ぬんだって」


膝に顔を埋めるナマエが掠れた声で低く呟いた。やつれて痩せた彼女には陽気な絵柄がプリントされている私のトレーナーはあまりにも似合わない。

「一回目は身体が死ぬ時、二回目は自分のことを誰も思い出してくれなくなった時」

二回目の死が本当の死なんだって。そう続けたナマエから仄かに漂う死の匂い。線香の匂いだった。喪服を纏ったナマエの後ろ姿を鮮烈に思い出す香りに目を細める。

「じゃあナマエは死なないね」
「…どうして」
「私はずっとナマエのこと忘れないもん」

嘘だ。部屋に響く突然の大声。

「ずっとなんてこの世に無い」

柚宇もいつかいなくなる。私のことなんて忘れちゃう。ナマエの目から大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちる。泣き疲れて涙は枯れたと言っていた彼女が泣いていることに心臓を激しく揺さぶられたような錯覚がして目の前の細い身体をかき抱いた。想像していたよりもずっと薄い身体。首筋を濡らす熱いものに愛しさが込み上げる。

「私には、柚宇だけ、なの」
「私もナマエだけだよ」
「私を置いていかないで、ずっと、ずっと…覚えて、いて、よ」
「忘れない、覚えてるよ」
「好き、す、き」
「私も好き」

子供のように泣きじゃくるナマエをただ黙って抱きしめる。嗚咽まじりに私の名前を呼ぶ声に胸が締め付けられて苦しい。この甘い苦しみに溺れたい。

私の心も身体もあなたの痕だらけなのに、どうしてあなたを忘れられるのだろうか。

何ものも、私についた痕は消せはしない。




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