ザザーンと波の音が聞こえる。潮の香りが鼻を掠めた。髪の毛が風にのってふわりと舞う。目を閉じてみる。しかしテトラポットの上は少しバランスが悪く、目を瞑るとそれが更に悪化するので直ぐに開けた。
 暫く海を眺めてみるが、特に何も起こらない。時間だけが刻々と過ぎて行く。海のずーっと向こうには小さく島が見える。あそこに行けば人が居るのかもしれないが、この距離を泳ぐのは無理だ。

 私は再び草が生い茂る地面へと足を下ろした。これからどうしようか。考える時間は沢山ある。とりあえず、この島に人が居ないのかを確かめた方がいいかもしれない。
 さっき、この海辺まで来る途中の道で船着場を見た。船は無かったが、もしかしたら誰かが船に乗って来るのかもしれない。そしたら、この島を出ることが出来る。

 そんな事を考えながら暫く歩いていると、またコンクリートのマンションが立ち並ぶ場所へ戻ってきたようだ。
 マンションのコンクリートの壁に手を付ける。ひんやりと冷たい感触が伝わってきた。そのまま壁を伝って足を進めて行く。

 マンションの下に水が貯まっている場所があった。不気味な青をしたそれが、静かにそこにある。その風景はとても不思議なものだった。マンションの下に水が貯まるなんてことがあるのだろうか。やはり此処に、人は住んでなさそうだ。この島は、すっかり自然たちの住家になっている。

 三方をマンションに囲まれた場所があった。中庭のような不思議な空間だ。そこは、変わった風の吹き方をする。三方が囲まれている為か、上から風が入り込んでくる。その風がぐるりと中庭部分を回って、囲まれていない一方から出て行くのだ。その場所は薄暗いのだが、上を見ると遠くの方に青く明るい空が見えるので、綺麗だ。



 長く、上に続く階段があった。その階段を上る。一度コンクリートの短いトンネルのようなものをくぐると、草や木で出来た自然のトンネルが続いていた。上を向くと、陽の光と、草の影で何故か少し辺りが紫色に見える。神秘的な場所だ。私は思わず溜め息をついた。後ろを振り向くと、コンクリートの汚いトンネルが見えるのに、上を見れば自然のアーチが見える。ここは何と美しい場所だろうか。私は何時間でも此処に居られるような気がした。
 自然のトンネルが続くのと同じように、階段もまだ上に続いていた。一段、一段しっかりと踏みしめる。
 何段か上ると、踊り場に出た。そこで自然のトンネルは終わってしまっていた。階段に生えていた草も、ここからは少し少なくなっている。私はまた階段を上った。どこまで続いているのだろう。段々と、地面が遠くなってきた。


 コンクリートで出来た鳥居が見えた。あそこをくぐれば、何かがあるのだろうか。一歩、また一歩と鳥居が近くなっていく。

 鳥居をくぐった先は、小さな広場のようになっていた。コンクリートの破片が所々に落ちている。そこにしっかりと存在しているのは、慰霊碑と書かれた細長い岩だ。
 私は汗を拭った。此処まで来て、これだけか。私は何を期待していたのだろう。

 その慰霊碑は海を背にしてこちらを見ていた。慰霊碑、ということは、この島で沢山の人が死ぬようなことがあったのだろうか。






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