皆が僕を見てる。不安気な顔で見ている奴も居れば、泣いてる奴も居る。遠くを見ればケータイで写真を撮っている奴も居た。僕はそいつ等に笑顔を向けた、そしたら皆俺からどんどん遠ざかって行く。
僕はゆっくりと足を進める。その度に皆が道を空けてくれるから、進むのがとても楽だった。
僕は深呼吸をした。深呼吸をした途端、鉄の匂いが鼻についてむせてしまう。そんな僕を皆は笑うことなく不安そうな表情で眺めていた。随分遠くからでも分かるそいつらの顔はマヌケだ。
僕はまた笑いが込み上げてきた。
しばらく道を歩いていたら、自分が何してるのかわからなくなってきた。あれ、僕はなんでこんな所に居るんだろう、なんて馬鹿みたいな問いかけを自分自身にする。
そういえば変だ、なんで皆は僕を避ける? なんでそんな目で僕を見てくるんだ?
あれ、僕は今日何をしにこの交差点に来たんだっけ。答えはなかなか出なかった。
もう暫く道を歩いていたら青い帽子の男達がやってきた。あれ、僕……なんでだ? 止まりなさい、と彼等に言われて僕は大人しくその場に立ち止まった。もう一度深呼吸をする。鉄の匂いがまた鼻をついた。ふと手を見たら僕の手には包丁が握られていた。その包丁は真っ赤に染まっている。
その包丁を見ると僕の顔が映った。顔も赤いのが所々についている。服を見る、服も所々赤くなっていた。
「あぁ、そうだった」
そこで自分が何をしに交差点に来たのかやっと思い出した。