前の主人は最悪だった。小さい子が居るお家で、顔にいっぱいラクガキされたし、よだれで髪の毛もギトギト。本当に最悪だった、思い出したくも無い。ここの店の主人が私を綺麗に掃除してくれたから良かったけどね。
私はブルーの綺麗な瞳をしていて、髪の毛はゴールド。肌は雪のようなホワイト、数年前まではとても人気があった種類。でも今は、瞳が……確かグリーンで髪の毛はブラックの種類が人気が出だしてたと思う。
私なんかを手にしてくれる人間はもう居ない。でも、この店で終わりを遂げるのもいいかも、なんて思ってる。ここは少し埃っぽいのが欠点だけど、それを覗けば大分私好み。レトロな雰囲気の家具が沢山置いてあるしあまり喋らないけど仲間も沢山居る。店の店主は毎日話しかけてくれる優しいおじいさんだし、飼っている犬はすごく大人しいゴールデンレトリバー。
カランカラン、と音をたててお店のドアが開いた。入って来たのはOLふうのスーツを着た女の人。髪の毛は後ろで一つに縛っていて、いかにもファッションに気がなさそう。
その女の人は私の元へ一直線に向かってきた。まさか、あんたみたいなダサい女が私を買うの?
「あ、あのッ」
奥の方に向かって女は叫んだ。店主がゆっくりとした足取りで出てくる
「なんでしょう?」
壊れたフルートみたいな声で店主が言った。
「この子、いくらですか?」
店主は少しだけ間を置いて、ニッコリと笑った。
「貰っていただけるのなら、お譲りしますよ」
馬鹿な事を言っている。私はタダでこの女に買われるの? そんなのイヤよ! と店主を睨みつけたら、店主はそれに気付いたようで私にウインクした。
私は店主の手によってガラスケースから出された。長いこと飾られていたガラスケースを出るのはとても不思議な気分。
「紙袋を用意しましょう」
「あ、いえ。手で……持って帰ります」
そういうとその女は私を抱きかかえた。ピンクで白レースのドレスが揺れる。カランカランと音をたててドアが開いた。久しぶりに外の空気を吸った
「お気をつけて、またどうぞ」
私はしっかり抱きかかえられていて、もう店主の顔は見られなかった。
息を荒くして小走りで私を抱きかかえる女に私は正直嫌気がさしていたが、私を落とさないようにしっかりと固定されていた腕に気付いて、少しなら様子を見てやってもいいかもと思った。