ミカちゃんは自殺志願者だ。このつまらない世界に絶望し、早くこの世を去りたいと考えている。手首には無数のリストカットがあり、それを隠さず生きている。自分の生きる意味、息をする意味、瞬きする意味が分からず苦しんでいる。

 ユージくんは偽善者だ。彼は沢山の善を行うことで、自分の存在価値を見出すことが出来た。何の見返りも求めずに善を行っているわけではない、彼は人に良く見られたい、自分は素敵な人間、他人とは違う何かを持っている、と自分自身を奮い立たせる。なので彼の善は全て偽りだ。

 ミカちゃんとユージくんが出会ったのは、2014年11月4日の事だ。その日は火曜日だった。ミカちゃんは見る予定だった番組の録画を忘れてしまったので絶望していた。ユージくんは、朝の電車で老いぼれに席を譲った事に満足していた。そんな二人がすれ違ったのは大学のラウンジ、11時24分の事だ。
 ミカちゃんが洩らした、死にたいという言葉はユージくんの耳に入り込んだ。

「死にたいの?」

「え? うん」

「自殺したいの?」

「うん」

 ユージくんは、自殺志願者0を目指す偽善に燃える少年だ。自殺というのは、自分を殺すこと、そんな事あってはならないのだ。ユージくんは、今までの行いで、自殺志願者を減らすことに成功していた。今回もユージくんは自殺志願者を減らす為、彼女の話を聞くことにする。

「私が居なくても地球は回るんです。面白く無いんです。友達が私の事悪く言うんです。3年前に飼ってた犬が死んだんです。母は私を叱るんです。私は可愛くないんです」

 ミカちゃんの糞みたいな日本語の羅列を、ユージくんはしっかりと聞いていた。これも彼の偽善だ。彼女の話を聞いてあげる、素晴らしい自分だ。

「僕は、自殺はいけないことだと思うんだ。だって、自分の事を殺すなんて、あってはならない事だろう? ご両親もきっと悲しむよ」

「でも、でも、でも」

「僕は自殺志願者を0にしたいんだ。自殺したいと願う心を、ゼロにしたいんだ」

 ユージくんとミカちゃんは、人気のないところまで歩く。大学の、使われていない教室の、用具室の中。ユージくんはミカちゃんの首を思い切り絞める。ミカちゃんは必死に抵抗する。死を目前にすると、やっと人間は生を感じるらしい。生きることの素晴らしさ、生きることの喜びを、やっと理解できたミカちゃんは、なんとかユージくんの手を振りほどこうとする。女の子が男の子に敵うわけもなく、ミカちゃんは暫くして死んだ。
 ユージくんはミカちゃんの死体を処理する方法を考えながら、満足げに微笑む。これは、彼の本当の善だ。ユージくんは、自殺志願者を殺すことで自殺志願者0を目指す、ただの善人である。

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