僕は屋上にいた。彼女も同じ屋上にいた。

彼女は屋上のフェンスの向こう側に立っていた、僕は不思議と何も感じない。
僕と彼女は友達だ。それでも僕は何も感じない。


「ねえ、何してるの?」

僕は彼女に問い掛けた、彼女は答えない。それに、この質問はしなくても分かる。

「死ぬの?」

彼女は肩を揺らした。
そして自嘲気味に笑うと頷いた。

そうか、やっぱり彼女は自殺しようとしてるんだな。僕が思い付いた言葉は彼女を止める言葉でも、慰めたりする言葉でもなかった

「ねえ、お金はいつ返してくれる?」

「幾らだった?」

「3000円」

少し沈黙が訪れた。


「また今度返すわ」

「あ、そう」


その時だった。ビュウッと強い風が吹いた、僕は思わず目を閉じた。向こうで小さな叫び声が聞こえた。


次に僕が目を開けた時、彼女はいなかった。僕はゆっくりとフェンスに近付いた、そしてフェンスの向こうを覗く。彼女は下に落ちたのだ。

なんと呆気ない最期だったろう。


屋上には何も遺されていなかった

「靴は脱がないのかい?」

彼女は上履きを履いたまま飛び降りた。

「遺書は書かないのかい?」

彼女は遺書を書かないまま飛び降りた。

「今度っていつだい?」

3000円はしっかり僕の元に帰ってくるのだろうか?



今となっては彼女が本当に死にたかったのか分からない。


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