「あのー、すいません」

 平日の昼間、隣の部屋から騒音が聞こえた。これが最初ではない、今日で多分17回目くらい。隣は昨日まで空き部屋だったのに、誰か引っ越してきたのだろうか。それとも、変なのが住み着いているのだろうか。どちらにしろ、あの騒音がこれからも繰り返されるのは迷惑だから部屋を覗いてみた。
 ドアを開けたら、凄い臭いが鼻を突く。思わず鼻を押さえた。ペンキの臭いだ、これは。

「あのぉ……」

 鼻声になりながら、奥に向かって声を投げた。部屋の奥から男の人がひょっこり顔を出す。あ、なんだ、イケメン。肩につく位の髪の毛、ボサボサだけどそれはそれで味がある。口にはタバコをくわえて、無精髭が生えてるけど、それもそれで味がある。

「なに」

 男の声は随分低くて、私は唾をゴクリと飲んだ。帰ろうか、なんて考えたけどそれはダメだ、私のプライドが傷つく。

「あの、なんか音が」

「あー」

 男は左手で自分の無精髭を触りながら言った。

「ゴメン。あ――これ」

 男は部屋の壁にもたれるように置いていたビニール袋を私に差し出した。壁と同じ、水色のペンキがビニールに少しついている。それを受け取って中身を覗く。何か分からないが、綺麗に包装された長方形の箱が入っている。

「なんですかこれ」

「俺、引っ越して来たから。よろしくね」

 意外とちゃんとした人らしい。男は部屋からゆっくりと玄関にいる私に近づいてきた。私は少し後ずさりしたが、背中がドアにぶつかってそれ以上は後ろに進めない。

「あ、りがとうございます。よろしくお願いします」

 それを言って帰ろうと思ったけど、男がじろじろ見てきたのが気になった。相変わらず左手で自分の無精髭を触りながら、私のつむじからつま先までを何度か見ている。

「なんですか」

「高校生? まだ発展途上といったところだね」

 男の言葉に、一気に自分の体温が熱くなった気がした。

「私は26です!!」

 男は驚いた顔をして、それから口の両端をくいっと上に上げた。そして、ゆっくり、ゆっくりと私に近づいてくる。距離がゆっくり近づいて、1メートル50センチ40センチ……

 私のつま先と男のつま先がくっついた。これだけ近くで見ると、男はそうとう背が高い。180……5以上だろうか。

「なん――」

 顎を人差し指で持ち上げられて私は男と目を合わせる。男は右手で咥えていたタバコを取ると私に煙を吐き出した。煙たくて咳をする。涙目で男を睨むと、男は小さく「よろしく」と言った。

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