プールの授業が終わった後、茂が妙に突っ掛かって来た。濡れた手で僕の肩を掴む所為で、少しだけ水が染みる。
「優里ちゃんかー。なんや、あんな子と知り合ってたんならもっと早く言えや」
「知らんわボケ」
茂はムスッとした顔をしてからタオルで頭を拭きだした。僕は体操着を脱いで制服に着替える。
着替えが終わり、茂と廊下を歩いていると茂はいつも以上に僕に話しを吹っ掛けてくる。
「なあ、優里ちゃんとは何処で知り合ったんや?」
「道」
「道? なんやそれ、お前がナンパしたって事でええんか?」
僕が急いで否定しようと思ったのに、茂はそれよりも先に肯定を繰り返した。「まさかシンがナンパするなんてな」とかを繰り返し呟く茂にイライラしてしまう。
「付き合ってんのか?」
茂は目をまん丸に開いて僕にそう聞いてきた。女に興味が無い僕が女と付き合うわけがない、それくらいは茂にも分かっている筈だ。それに、あんな騒がしい女タイプじゃないし。
「付き合ってる訳ないやろ」
「せやろなあ、あんまりシンの好みじゃなさそうやしな……あの子」
茂は顎に手を当てて唸り声を上げながら考え込んだ。これだけ椎名の事を色々つっこんで来る茂を見れば、誰もが茂は椎名に興味があるのだと勘違いするだろう。でも茂には綺麗な彼女がいるし、僕からすれば椎名に興味があるのだとは考え難い。何故茂がこんなにも椎名を気にするのか、僕には分からないで居た。
「そうやな……1組にな、静かやけど可愛い子がおるんやけど」
茂がそう言って僕を見た。つまり、何が言いたいのか分からない。
「つまり何が言いたいのかわからん、って感じの顔してんな。つまり俺が言いたいのは……」
僕の横を歩いていた茂が突然僕の前に飛び出した。僕は驚いて足を止める。危うく茂の足を踏んでしまうか、茂に足を踏まれてしまうところだった。
「なんや、危ないな……」
「つまり! ……彼女、いらんのか?」
僕は思わず溜め息をついた。そんな事が言いたかったのか……。彼女と一緒に何かするよりも一人で居る方が大分楽だと思う。
「お節介や、彼女なんかいらん」
「……やな。そう言うと思った」
茂は溜め息をつくと僕の前を歩き出した。
「優里ちゃんと何の話してたん?」
「色々」
「その色々を聞いてる」
「知らん」
適当にそう返す。僕は水族館に誘われたことを言おうか言うまいかを考えていた。相談するようなことでも無い気がするけど、茂に隠すようなことでも無い気もするし。
僕は前を歩く茂を見た。よく見ると髪の毛は少しだけ茶色くなっている、春休みの間に染めたらしい。黒い髪の僕とは大違いだ。
「シン!」
「なんや?」
「俺は……」
前を歩いていた茂は足を止めて僕の方を向いた、そして息を吸い込む。
「俺はお前に一生彼女が出来へんくても友達でおるからな」
「……なんやそれ」
思わず少しだけ笑ってしまった。