次の日の朝、家を出ると見覚えのある女が玄関前に立っていた。昨日のあの女だ。

「北上君、おはよう」

 昨日と同じように髪の毛を二つに結っている。季節は6月半ば、そろそろプールが始まる季節でもう暑いのに彼女はベストの下に長袖のカッターシャツを着ていた。僕はもう半袖を着ているけど、女子はそんなものだろうか?
 僕は目の前に立つ女をじいっと見つめた。口からは溜め息が漏れる。

「お前、やっぱりストーカーやろ」

「ストーカー……ん、まあ間違ってない、かな」

 随分あっさりと自分がストーカーであることを認めた。僕はもう一度溜め息をついた。

「で、なんや?」

「一緒に登校しませんか!」

 声を張り上げる椎名に、僕は目が眩むのを感じた。朝から絶対近所迷惑だ。僕がそんな事を考え、少し黙っていると何を思ったのか椎名はもう一度同じ言葉を繰り返し叫んだ。

「聞こえてるわ煩いな、黙れ!」

「なら返事してよ!」

 反論してきた椎名の後ろを通った近所のおばさんが"微笑ましいわねえ"なんて顔で僕の方を見たのを見逃さなかった。僕とコイツは何関係として見られているんだろう、危ない、早く逃げないと。
 僕はワザとらしく頬を膨らませる椎名を無視して歩いた。椎名は直ぐに僕の後を着いて来る。

「きったっがっみっ君!」

 歩くリズムに合わせて僕の苗字を呼ぶ。僕は歩く速度を上げた、暫くすると椎名の息が上がりはじめる。もう苗字を呼ぶ声は聞こえなくなった。
 安心した次の瞬間だった、突然僕の体が後ろに傾く。僕は咄嗟に右足を地面に押し付けて踏ん張った。後ろを向くと顔を真っ赤にさせた椎名が僕を睨みつけている。椎名の手元を見ると僕のスクールバッグの紐が握られていて、それを思い切り後ろに引っ張られたらしい。

「歩くの、早い、ちょっと、待ってよ」

「知るか、着いて来るな」

 僕はスクールバッグの紐を掴んでいる椎名の腕を振り払った。それからまた足を進める。暫く歩いてから後ろを振り向くと、椎名は一人でトボトボと歩いていた。僕は直ぐに前を向いてまた歩き出した。






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