※深海魚は眠らないの続き 「あ、美佳!お前俺のプリン食ったろ!」 「ごめんそんな気なかったんだついわざと」 「わざとじゃねーかてめえ!」 「てへー」 「てへーじゃ許されません羽交い締めの刑!」 「ぐおっ!」 スーパーで見かけた焼きプリンから、そんな昔の記憶が死ぬほど鮮明に蘇ってくる。そういえばあいつは、一箱のみかんを一日で全部食いやがったこともあったっけな。 「さみー」 「太一の財布が?」 「いやうん、そっちも随分寒いけどさ、うん」 「えーやだ太一手汗すごいから手繋ぎたくない」 「うそ!」 「うそー」 「うわー」 前を歩く若い恋人たちを見て、またもやフラッシュバックするはあいつのこと。女房の家が金持ちだから俺がわざわざスーパーなんぞに出向く必要はないんだけれども、一日一回はあの低俗な雰囲気に浸っていたくて、俺はこうして九十八円のプリンを買いにくる。半分は、夕方の帰り道に見かける恋人たちだったり、老夫婦だったり、お母さんを手伝うためにスーパーの袋を持つ子どもだったり、そういう光景が目的でもある 「太一さんんんん!!あんたまた僕の…」 「しーっ!うっせえよワカメ、美佳が起きるだろ」 「そのワカメってあだ名そろそろやめて貰えますかね」 あいつは起きてっと超絶うっさいけど、寝てて大人しければ超絶かわいいんだ。もちろん八割俺の偏見。ワカメのやつ、まだ俺のことなんか信じて璃子と店守ってんのかな 「あなた、美佳は寝ました?」 「ああ、今ちょうど」 「…まあ、かわいい寝顔」 我が子につけた名前の由来を、お前は知っているか 女房は何も知らずに てめえの憎む、 俺の愛した女の名を呼ぶ 愛しそうに |