「おーい」 振り返れば、そこには赤坂の鬱陶しい顔が。 「ちょ、無視はやめようか!なあ!」 奇跡的に早起きして奇跡的に遅刻しなさそうでウキウキな気分なのになぜ同じ遅刻魔のあいつと奇跡的な遭遇をしなければならないんだ!いつも通り遅刻しろよ! 「ねえ本当やめよう俺完全に可哀想な子じゃん反応してよ何か反応してよねえってば聞いてんのか青柳てめー泣くぞ俺」 「うっせえええ!黙るか死ぬかどっちかにしろ!後者希望!」 「えええええ」 本当に男かこいつ。発言が弱い。ひょろっひょろしやがって、なのにちゃっかり筋肉もついてるからむかつく。男子全般むかつく。体重増やしたいとか言ってる男子むかつく。要するに赤坂むかつく。 「わたしは朝から気分を害しましたー責任とってくださーい」 「嫌ですー、ていうかお前一応女なんだから口の悪さをどうにかしてくださーい」 「お褒めいただき光栄でーす」 「誉めてませーん」 ほぼ遅刻するあたしはほぼ遅刻する赤坂とほぼ毎日会う。どんな運命だ嬉しくない。そして遅刻しない日もほぼ被る。あたしのストーカーなんじゃなかろうかという程によく会う嬉しくない。 「なあ青柳聞いてくれよ」 「お会計千円になります」 「え、何その近年稀にみる笑顔!えげつない!」 「早く言えよ」 「極貧高校生は千円も払えない」 「イタリアンジョークだ馬鹿やろう」 「イタリアン初めて聞いたわ!」 赤坂と会えばいつもこんな調子だ。ふざけてじゃれ合いながら、あははと笑って土手を歩く。なんて青春らしい青春なんだろう!じゃれ合いの内容が本気の殴り合いじゃなかったら! 「おま、顔殴るか?女の子の顔殴るか?」 「女の子…?え…そんな可愛いのどこにぐふぇ!痛え!」 「嫁にいけなくなったらどうしてくれる」 「…そんときゃ俺が貰ってやるさ」 「…赤坂、それって」 と言うのは勿論ネタである。赤坂なんぞに貰われたかねえ。俺が貰ってやるさと言いながらあたしの鞄を引っ掻き回し、必死に絆創膏を探すやつにロマンの欠片を感じられる人がいたら世界はもっと平和だと思う。元より、あたしたちはそんな間柄じゃあない。 「で話とは?」 「やあ、昨日うちの猫が赤ん坊生んでさ」 「ま、まさか……!」 「そのまさか!ど?5匹いるけど」 「よし今から赤坂家に行こう!」 「は?え、今から!?学校は」 「知らん!私の猫に対する愛情には勝てないのよ…ああ、ねこかわいいよねこ……!」 「ちょっ、青柳!待てって!うっおーい!」 まあつまり何が言いたいかって、男女に友情は存在するってこと。 |