出発は今日だから、などと笑顔で言う五十過ぎの放浪人どもを蹴り飛ばしても、俺はちゃんと天国へ行けるだろうか







第7話
存在が黄金伝説








こいつらの自由奔放な人生に付き合わされたことはこれまでも幾度となくあったが、今回のは最高級に意味が分からない。保護者ともあろう奴らが1ヵ月日本にいないときた。これはもはや日本に誇る重鎮じゃないか。



「まあまあ、あのビューティーでキューティーな我が妹と一緒に暮らせるんだ、これ以上の至福は」

「黙れシスコン、お前が姉貴と暮らすようなもんだぞ」

「それはないあり得ない人類が滅亡しかけて世界に俺とあいつだけになったとしても俺は絶対に人類滅亡を選ぶ」

「凄まじい否定をどうもありがとう」



姉さんとミュウ兄ほど仲の悪い男女もそうそう見ない。つーかだいたい年頃の男女をひとつ屋根の下に放り込むとは何事?それでなくても俺はほら、リンが…ね、あれなわけだから!色々無理だろ!精神崩壊するわ!



「必要な荷物持ってきたー」

「沙織の部屋、使っていいわよ」

「あざっすおばちゃん」

「えええ何お前その順応性」



どう考えても訴訟を起こしたくなるこの展開にいち早く順応したのはもちろんリンだ。分かってないだろお前事の重大さが!12月って言ったらイベント盛りだくさんで大変だし大掃除とか俺らだけでやんなくちゃいけねえしクリ…クリスマスとかあるしあああああもう!



「母ちゃんたち一度言い出したら貫き通すじゃん。無理だよ、諦めて自分らでおせち料理作んなきゃいけないんだよ」

「はあ…俺にもお前みたいな適応力欲しかったわ…おせちの心配なんかしねえよ…」



リンの言う通り、どんなに反対しようと自分たちの娯楽に貪欲なこの人たちはいらん有言実行を果たすんだ。言い出した時から薄々分かっていたが、今回に限っては質の悪い冗談だと思いたかった。ていうか、馬鹿だろ本当



「かーいとー」

「なに」

「俺、今日は泊まってくから」

「なんでだよ」

「海斗が俺のリンちゃん襲わないようにー」

「誰がんなことするか消えろ」

「おー、怖い怖い」



そう言って両手を挙げ、降参のポーズをしながら冗談だよと言ってくすくす笑う男。どう思う?何しても絵になる人って。うんそうだよね、いらいらするよね。正解。



「それにしてもいいチャンスだな」

「は?」

「ま、1ヶ月1万円生活みたいな感じで適当に過ごしゃいいんじゃないか。お袋たちに常識求めるのが間違いさ」

「あいつらの存在が伝説だよ」



あり得なさすぎるこんな展開の中でなんだかんだ俺たちがいやに冷静なのは、もちろん今までに散々常識外れの経験を積まされてきたからである。無論、今回のが史上最大にあり得ないのは言うまでもないけど



「さおちゃんいつ帰ってくんの?」

「あー、知らね」

「いい、あいつは一生帰ってこなくていい」

「ミュウ兄どっから出したその藁人形」



こうして俺1ヵ月1万円生活、違う、波瀾万丈の戦いが始まった



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