「みかん」

「ん」

「え、むいてよ」

「や、自分でやれよ」

「白いの全部とってね」

「ふざけんなお前みかん取ってやっただけでも有り難く思え!」




これはそんな俺の奮闘記である







第1話
いや、そんなうまくいかないって








「白いのまずいじゃん」

「何言ってんだ、この白いやつがみかんの栄養そのものなんだからな」

「いいよあたしは実だけで、みかんにそんな栄養とか求めてないし」

「実だけ食って白いの捨てるなんて邪道!んなもんつんく♂のいないモー娘。と同じじゃねえか!」

「何その微妙に分かりにくい例え」



そういえば去年もこんな話ばっかして年を越した記憶がある。うわ、もう俺らってただの馬鹿じゃね?いや違うんだよ、こいつが、リンが!俺の愛するみかんの!白い部分を!なんと嫌いだと言うのだよまじ有り得ねーぜえええ

この橙色のやわらかなボディ、それを覆うきめ細やかな白い繊維、そして全体をくるむ皮!な、素晴らしいだろ?みかんは神秘だ。柑橘類の王様と言ってもいい。そしてコタツとのこの相性!まさに冬将軍に値す「いやコタツうちにないじゃん」

「俺の一人語り邪魔すんなよ!」

「うっせ!みかん眺めてうっとりしてる19歳なんか気持ち悪いだけだし!帰れよ自分家に!」

「えー俺んち暖房壊れてんだよな」

「知らねーよ出てけ電気泥棒」



電気泥棒とは失敬な!リンだってほぼ毎日うちで夕飯食ってくくせに全く何を言いやがる。あ?かれこれ10年以上壊れてる?当たり前だろ直しても買ってもねんだから。つーかそれを言うならお前だってかれこれ10年以上、いやもっとだな、ほぼ20年だ、俺んちでメシ食い続けてんじゃんかよ!うちがいつになっても冷暖房器具を買えないのはリンの食費の分だ。絶対そうだ。



「そんなん親がどっちもエリートで家にいないんだからしょーがないじゃん」

「何それ遠まわしに自慢してんの?俺んちがぺーぺーだって言いたいの?」

「まっさかー、海斗は貶してもおばちゃんを見下すようなことはしないよ第二のお母さんだからね!」

「前半部分が聞き捨てならない」



こいつの親父はどっかの社長、お袋はまた別のどっかの社長。二人して社長。サラリーマンと専業主婦の俺の親に比べたら月とすっぽん以上だ。島田紳助と売れない先輩芸人ぐらいだ。ならなんで俺らがつるんでるかと言えば、お袋同士の相性が島田紳助と司会くらい良くて、家が近いから。不本意だけどいわゆる幼なじみってやつだ、不本意だけど!



「海斗、みかんもう一個」



幼なじみなんて関係はもちろん不本意だ。なぜならば俺はこのテレビの前でケツをかきながらみかんを要求する女がどうも好きらしいからだ。こないだ気づいた。まずそのこと自体が不本意過ぎる。そんで何が一番不本意かって、三次元に生きる幼なじみなんてものは大抵、少女漫画みたいに簡単にはくっついたりしないわけだ。そんなうまくいかない。不本意。



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