無駄にばかでかい庁舎の上から二番目と三番目の階、それが俺たちの住処だ。ご飯は食堂に行けばいつでも食べれるし、一人一人個室だって用意されてる。特に不満はない。ここへ来てから何年がたったんだろう、なーんて物思いに更けるほど俺は暇じゃないんだ。そうだ。大体こんな一人語りしてる余裕ないんだよね、隣で天然パーマ野郎が早くやれ早くやれ言ってくるしうっさいな!お前判子押してるだけじゃん!俺なんか手作業なんだよふざけんなさっきからポンポンポンポンリズミカルに仕事しやがって……!












V e r d i n g - C E
―1








「おっせー、早よ書けや阿呆」

「どの口が言うこの判子大使め!判子しか押せない奴が何を」

「あん?判子なめたらあかんでこれはオレにしか出来ひん技や」

「そうだねサイにとったら判子押しも大変な作業なんだよね」

「何、殴ってええの?」

「いやーん暴力へんたーい」

「こんのポニーテール野郎……!」



吊された比較的新しいシャンデリアの下で、俺とサイはくだらなさすぎる理由でバトルを繰り広げた。なんてことはない日常的な光景である。そんな騒ぎをわざわざ止めようなんて考える人は勿論いるわけもなく、談話室と称されるこの場で走り回る俺たちはただひたすらに無いものとして扱われるだけだ。



「止まれやチビ!」

「止まるか天パ!」

「童顔!」

「天パ!」

「眉無し!」

「天パ!」

「女顔!」

「天パ!」

「お前天パしか言うとらんやんんんん!!」



眉毛が短いのは生まれつきだほっとけ!それから童顔と女顔は多面性があって気に入ってるから別に悪口じゃない。はは、ざまーみろ!

蹴り合いの喧嘩から数歩引いたサイが自前の小刀を三本ほどぶっ放してきやがったから、俺も反撃……やっばい昨日しっかり磨き上げてそのまま部屋に置いてきたんだった!俺の刀!うわどうしよう、サイの餌食になるくらいならパンツはかない方がマシだ。あ、フリスビー発見



「食らえ!」

「おま、なんでフリスビー!」

「そこにフリスビーがあったから…それ以上でもそれ以下でもないよ」

「え、なんでかっこつけたんそこで」



サイが短刀をきらしたところを見計らってフリスビーを思いっきり投げてやれば、当たるとこやってん!ちび!と向こうの方で叫びだした。いや、君さっき鋭利な刃物投げてきたからね、人のこと言えないからね、身長も五センチくらいしか変わんないからね!



「ほれ、もう一発食らえ!」

「ちょ、何枚あんねん!」

「リューネ、サイ、その辺にしておいたらどうです。遊衣が来ますよ」



俺たちの乱闘の中、綿貫はと言えば何事もないかのように本を読んでいた。俺が飛ばしたフリスビーを見もせずに避け、サイのあんちきしょーめが飛ばした短刀を見もせずに避け、ひたすら本を読んでいるこの人は本当尊敬する。首を少し左右に傾けるだけでなんだってあそこまで綺麗に当たらないものか。顔半分を覆う漆黒の髪は肩のあたりで収束、顔のパーツは口しか確認出来ない。和服がよく似合う成人だ。その綿貫が俺たちを止めるが早いか、バタンとドアが勢いよく開いた。なんかやばい気がする


「…止めるのが遅かったようですね」


真っ暗な前髪で頬まで覆われた綿貫の顔はよく見えなかったが、口調から苦笑してるらしいことが分かった。綿貫から視線を外しドアに向けると、にっこり笑った女の子が顔の横で、飛んできたフリスビーを二本の指で軽々と受け止めて立っていた。



「…ユ、ユーラ」

「うふふふ フリスビーを投げやがったのはどこのどいつかしら名乗り出ろ」


……やーん







例えるなら慢性胃腸炎




もしも俺たちが普通の人間だったならきっと今頃、普通の友達と普通にゲーセン行ったり普通に学校行ったり普通に、何も知らず生活していただろうに

普通と違うなんてのがちやほやされんのは、二次元のヒーローとか仮面ライダーとかだけだ。実際はなんだかんだめんどくさいし、変な目で見られるし、特に良いことなんてない



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