「あーきゅー!うっさいんだけど!ねえ!そろそろストップ!」

「ああん?リューネ?なんでてめえここにいんだよ」

「お前らが来たんだよ建物ぶっ壊しまくって」

「んあ!?聞こえねえよ!」

「お前のせいだよ!とりあえずストップ!落ち着いて!」

「落ち着けるか!このメガネ野郎ぶっ飛ばさねえと今日の総集編見逃すんだよ!録画忘れたんだよ!」

「いや知らないし!自分が悪いんじゃん!」

「マツコの回ラストだぜ!?今までマツコを見守ってきた俺様にとっちゃ最重要事項なんだよ!」









―25








突如爆風が吹き荒れ、辺りの木を巨大な炎が襲った。燃えてない。



「木が…燃えない……?」

「阿久の炎だからね。あ、阿久ってあいつ、今俺と話してたあの銀髪で明らか頭悪そうなやつ」

「…阿久」



キラ男は阿久という名前に反応を示したみたいだった。本当何者なのこの人、何歳(で死んだ)かも分からない。若そうだけど。ていうかよく見るとそこそこイケメンじゃん。

ひたすらメガネの人とやり合ってる阿久はどうにも中止してくれそうに無いので、諦めて観戦することにした。絶対楽しんでるよあいつ。ドカンバカン言ってるけど大丈夫なのこれ、崩壊した建物の下敷きになるようなことがあれば疲れるのは俺なんだけどなあ



「彼が阿久家の…待てよ、もしかして話者は全員揃っているのか?」

「全員?いるんじゃないの?そういえば話者が何人いるとか聞いたことないけど。今いる六人だけだと思ってた」

「全員…揃っただと…?…そうだ、君は!君は何の、」



ドッカーン、パラパラ。
…うわー、やりやがった。阿久がさらに壁をぶち壊した破壊音でキラ男の言葉は遮られ、同時に天井が崩れてくる。最悪だよ本当、俺が天井止めなきゃじゃん。めんど!



「ふざっけんな阿久!俺の体力無駄遣いさせやがって!遊んでないでとっととそのメガネ倒してよ!」

「もしこいつがパンピーだったらどうすんだよ!減給食らうだろ!」

「殺さなきゃいんだよ殺さなきゃ!膝つかせりゃいいじゃん!」

「出来ねえよ!俺の炎じゃ殺すか遊ぶかしか無理だ!」

「究極の二択だなおい!」



ていうか大声で話すのめっちゃ疲れる!クソ阿久め!爆音どうにかしろ!



「俺そのメガネやるから阿久この天井どうにかして!」

「こいつは俺の獲物だ!」

「うっさいそれじゃいつまでたっても終わんないじゃん!どけ!」

「嫌だ!」

「……はあああ!?」

「当たりくじを引いた俺様を差し置いていいとこ取りなんてさせるか!」

「ひねくれてんなお前の性格!」



埒があかない。半径五百メートルほどの範囲の天井をせき止めながらいつ終わるか分からない低脳どもの戦いを見てるなんて、そんな自分を痛めつけるようなことをする気はさらさら無い。メガネの膝だろうが全身だろうが、俺なら一秒でつけることが出来る。時間を無駄にするのは懲り懲りだ。



「阿久、帰ったらマツコステッカーあげるから!引いて!」

「マツコステッカーなら全て揃ってる」

「マツコの入浴剤は!」

「二つずつ全種類ある」

「マツコチュッパチャプス!」

「全て舐め終わってる」

「特装版マツコ人形!」

「特装版…だと……!?」



阿久はこんな外見こんな性格だが無類のかわいいもの好きだ。目つき悪い男がでかいうさぎの人形を幸せそうに抱いているのを見た時は、そりゃあもう相当な衝撃だった。あん時はまだ阿久の歳も一桁だったために許せたが、二十歳を過ぎた現在も進行してこうもかわいいものに目がないと気持ち悪い以外何て表現したらいいか分からない。誰よりも扱い易いことは確かだけどね。



「マツコ人形の特装版なら仕方ねえ…手を打ってやる」

「よし、早急に崩れてくる天井をどうにか止めるなりどかすなりしといて」

「ったく、なんで俺様がこんな地味仕事を…」

「いやお前だからね!お前が天井ぶっ壊したんだからね!」



阿久が天井の残骸を炎で気だるそうに移動させるのを確認してから、俺は「今度は君か?君のようなお子様に僕が」なんたらかんたら言ってるメガネの時間を止めて阿久が作った瓦礫の山にに埋めた。一秒。



「天井が燃えている!火事じゃ、火事じゃ!」

「安心しておじいちゃん、あの炎で物は燃えないから」







可愛いもの好きなのが女の子だけとは限らない




さて、関係者にしか出回っていないらしい特装版マツコ人形を一体どうやって手配しようか



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