「わしゃなあ、四十んときここへきたんじゃが迷路みたいな道じゃろ?迷ってしもてなあ、出れんくなったんじゃ。いつのまにか死んどった」

「はっは!じいさんはまだいいほうだ、おれなんかそこの蔦に引っかかって頭打った」

「そりゃお前がどんくさいだけじゃねえか、おれは当たりだったぜ」

「だがお前さんはメガネの男に負けたんだろ?」

「それがあんのメガネ小僧、無駄に強えんだ」

「あら、あなたが弱いんじゃなくて?」

「そういうお前も負けただろ」









―24








何この状況。何十もの人たちが俺のまわりに集まってくる。なんだなんだ。



「君……」



わーわーと自分の死に様を語りまくるこの亡霊どもの中、一人ふらふらと俺のもとへやってくる若い男がいた。誰。なんかすげーギラギラした目で見てくるけど大丈夫かこいつ。



「君……ちょっと……」



がやがやと死に様自慢大会を始め、俺の存在なんかすっかり忘れ去った亡霊たちの輪からするりと抜け出し、ギラ男と少し離れた切り株に座った。何これ誘拐?



「あ、あの……」

「ねえ!君!君さあ!」

「はははい!何でしょう!」



それまで目をギラギラさせていたギラ男が、今度は目をキラキラさせ期待に満ち溢れた様子で俺を凝視した。何だ、ずいぶんといきなり明るくなったな!



「君、君その羽織は!」

「ん?羽織?」

「中央庁の者じゃないのか!?」

「え、そうですけど…」

「やはりそうか!…待てよ、白羽織に黒いワイシャツ…そうか…見つかったのか……!」



庁の白羽織なら誰でも知ってる。加えて黒ワイシャツに反応したこのキラ男、俺たちのことを知ってるっていうのか。もしくは元庁の人間か。…見つかったって?



「見つかったってどういう、」

「君!君なら俺たちを解放することができる!」

「は?ちょっ、落ち着いてキラ男さん」

「キラ男って誰?」

「とりあえず座って座って」

「あ、はい」



キラ男の肩を叩いて切り株に座らせた。俺の手が奴の肩をすり抜けたのには気づかなかったことにする。



「キラ男、見つかったってどういうこと?」

「話者のことだよ、ていうかキラ男って俺?俺のことなの?」



やっぱりこいつ、話者を知ってるんだ。しかも階級を表す黒ワイシャツの中でも少しだけ造りの違う話者のワイシャツに瞬間的に気づいたとは、このキラ男…

俺がキラ男を凝視してから数秒後、ドバーンガシャーンバラバラーという聞き覚えのある爆音が響いた。あいつか



「ああん!?俺様が手加減してやりゃあてめえいい気になりやがって!死ね!」

「あはははは!君なんかが僕の膝を地につけられるとでも思ってるのか!?とんだ勘違いだな!」

「俺様を見くびんじゃねえよ!膝どころか全身地にへばりつけてやる!死ね!全力で死ね!」

「死ね死ね言うのは良くないと思うぞ!本当に野蛮なやつだな!」

「うるせえメガネ野郎!お前の母ちゃんでべそ!」



……うわあ、何だこのレベルの低い戦い







低レベルが高レベル




逆にハイレベルだ



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