「それで?」 「オールバックが“今はお前らと戦うべき時じゃない、アディオス!”って言いながら去ってった」 「…嘘は減き「アディオスは嘘です」 やっと長の部屋を出て、ほっと胸を撫で下ろした。それだけか、と聞かれたけどもそれだけのはずがない。なんとか長の質問をすり抜け我ながら意外に演技が上手いと思ったが、何にせよ相手は長だからなあ。なんも聞き返してこなかったけど、あの目に全てが見透かされてそうで怖い 「それにしてもあのオールバック、一体何者なんだかね」 「俺らのこと知り尽くしてそうやったもんな」 光の話者であるサイは、戦闘において生身でやることはまず無い。虚像を創ってそいつに戦わせるんだ。光を利用して創ってるから本当はサイ本体と虚像が同じ動きをするわけなんだけど、そんなことやってたら仕事にならない。幸いとうの昔に虚像だけを動かせる技術は身に付けてる。これがかなり高度な技なのはその過程を見てきた俺には十分わかるが、それがオールバックにはさらりとばれてた。 「“お前の虚像と戦う気はないさ、光の。そっちは相当ばててんなあ、いつまでも桐原に護られてるようだから駿河は衰退したんだ”だーって!ばてたのは無駄に多い警備兵とジャングルのせいだっつの!駿河家も衰退してたわけじゃないし!」 「全部あっちの策、お前が最初っから力使い過ぎなんや。つーか声マネ無駄に上手いのなんで」 カーリーに貰ったまっさらな報告書と文字でぎっしりの資料(今回以外の事件ファイルもちゃっかり渡された)を持って、俺たちはエレベーターに乗り込んだ。これから報告書とはなんたる悲劇 「でもサイの本体の場所は分かんなかったみたいだよね」 「さーね、分かってたけど今回は戦う気ないから来えへんかっただけかもなあ」 「ていうか今は戦うべき時じゃないってことはまたいつか戦うわけ?」 「…せやな」 ―10 報告書と資料の山を抱え大広間の一角を陣取ってから早二時間。終わる気配がない。つーかたまには報告書と判子押し変われ本当。判子なんてあれだからね、一枚に一つだからね、こっち本文一枚書くのに30分以上かかるんだけど何この大差!しかもこの前の書類だってまだ片付いてないしもうやだ眠い疲れたゲームやりたい眠い 「パトラッシュ…僕はもう、眠いよ……」 「へーへーふざけとらんではよ書きやがれ」 「冷たぁっ!な、何入れ…ちょ、冷たい冷たい!うわあああ背中に氷があああ」 「あんたらうっさいよー」 報告書まみれの俺と判子押しに専念するサイを見据えながら、多忙な管理部の若き司令塔ユーラがやってきた。そのままヘルプに入ってくれて(こうやって一つ一つユーラに借りができてく。ゆえに頭が上がらない)三人こぞってデスクワークにどんより励んだ。根暗。近頃増えはじめてる神隠しや障害事件のせいで、更に二時間たってもやっぱり終わる気配は全く無い。パトラッシュ! 「サイ、リューネと変わってやったら」 「えーオレ判子専門家」 「報告書書いてる人って、かっこいいよね」 「さあリューネくん、この僕が変わってあげよう」 ユーラは頬杖をつき遠くを見つめながら、バックに花という花を咲かせ呟いた。さすがは長年の仲、扱いが上手い。サイもサイでキラキラしながら、うなだれていた俺の肩に腕をかけてきた。土に還れ。 天パが格好つけながら報告書を書き上げ始めると、ユーラが判子を持った俺に耳打ちしてきた 「あの滅裂コンビが帰ってくるって」 「あ、完全に存在忘れてた…今日?」 「うん、ていうかもう正門にいるってさっき連絡入った」 「さっき?じゃあもうすぐ来るじゃん!」 「そ。だから」 だから、と言って親指でサイを指す少女は満面の笑み。黒い。 「ああ、ナイスユーラ」 「あれで巻いてさっさと逃げよ」 キラキラオーラを放ったままのサイもといあれに「長に呼ばれた」だとか適当なことを言って、大広間の南扉に向かった。庁舎は北向きに出来てるからね。だがしかし、こういう悪巧みはどうも上手くはいかないもんらしい。俺たちが南扉に向かって早歩きしていたら前方の扉がドバンガシャンと開き、デスクワークに疲れた俺が今一番見たくない奴らが現れた。おい今ガシャン言ったぞ 「おいテメーら、俺様のお帰りだ!盛大な拍手で迎えろ!」 「ねえ阿久、僕を差し置いて先に入るってどういうこと?暑苦しい君より爽やかな僕が入ってきた方が場が和むってもんだろう」 「埋まれ。だいたい呼び捨てにすんじゃねえ阿久様だ、アキュウサマ!」 「面倒くさいやつだなあ、そんなんだから彼女ができないんじゃないかい」 「ああ?俺様は女なんていらねんだよ」 「へえ、男が良いんだ」 「よしてめえ表出ろ」 「馬鹿なの?今部屋に入ったばっかなのに、馬鹿なの?」 話者とパトラッシュ あちらに見えますのが、中央名物滅裂コンビでございます |