糖分禁止令が出されてから五日目の早朝だった。最近静かだったここ中央庁が、夜明けと共に騒がしくなっている。こんなことは前にもあった。おそらく庁の入り口に襲撃予告の貼り紙があるか、すでにどっかの組織が襲撃しに来たか。後者はごめんだ。なぜなら今俺は糖分が足りなくてエネルギー不足だから。わたあめ食べたい。 「おじちゃん」 「おう坊主、おはようさん」 「おはよ、なんかあったの?」 「久々になあ、」 俺は銀色の柵に腕をおろした。体格のいいあごひげのおじちゃんが指さす方角を追えば、なにやら物騒な武器を担ぐ集団。ゆっくりと、確実に、庁の門に近づいてきている。うーん、後者。 ―3 「ついさっき監視部がキャッチしたらしいぜ、何週間か前に噂になってたA級組織だと」 二十代前半と思われる男たちの塊は、本当にゆっくり、見せつけるように歩いている。ゆっくり歩く姿を見て俺が何を連想したかといえば、五日前のユーラ。あの威圧感に比べたら、やばそうな武器をごっそり持った男たちなんか俺にとっちゃ赤子同然だ。静かに怒るユーラの方が数億倍怖い。それに、何週間か前に噂になってたという過去形からして狙撃班は対策が出来ているんだろう。よし、俺らの出番はない。二度寝しよう。 「ありがとおじちゃん、俺寝るわ」 「ここの狙撃班はすごいが万が一ってこともあるからなあ、避難しとけよ」 「そうだね、おじちゃんは逃げなくていいの?」 俺は返しかけた踵を戻し、大外がりで筋肉質のおじちゃんを倒した。手錠をかけて背中に座る。 「ぼ、坊主?なんだ、一体!」 「何って、たいほ」 「何を……!」 この世界には、万が一なんてものはそこら辺に転がってる。最大勢力を持つ中央庁は政府であり警察であり、つまりはその権力を欲しがる輩によく狙われる。俗に言う中央落とし。面倒。そこら辺スパイだらけだ。 「坊主!どういうつもりだ、外せ!」 「ねえおじちゃん、あんたの名前は?」 「関係ないだろ」 「ふうん、じゃあ俺の名前は?」 「庁にはすげー数の社員がいるんだ、知るわけない。それより早く、」 「へえー、そんな知識で中に入れたなんて奇跡だね。門番何やってんだか」 俺は通信機を取り出した。通信先は、我らが庁長 「あ、長?」 「どうした」 「長は巨乳派?貧乳派?」 「くだらんこと言ってると減給するぞ。貧乳派だ」 俺の下から、ふざけた会話してねえで早く手錠取れ!と怒る声が飛んできた。ちょ、うるさい 「それで要件は何だ」 「リスト外のあごひげおじちゃんゲットした。どうすればいい?そっちまで運ぶのめんどくさいんだけど」 「動かないと太るぞ。まあいい、適当に相手しておけ。いま雁谷野君を向かわせる」 通信が切れる。最上階からここまで来るのに一分、かな。仕方ないからあごひげのおじちゃんと話でもしてようか、すごい怒ってるけど。うえー、そんな睨まないでよ 「んじゃ、カーリーが来るまでお話してようおじちゃん。暇だし」 「知るか、おい、ガキ!てめえ俺にこんなことして後でどうなっても知らねえからな!」 「ね、話者って知ってる?」 「聞いてんのか!後でどうなっても、」 「知ってんのか、知らないのか、って」 「…知ってらァ!中央にいるっつう変な力使う奴らだろ、それがなんだってんだ」 「うん、それね、俺だって言ったらどうする?」 「…は!ふざけんな、ありゃただの噂話だろ。大体お前みたいなガキが、」 「こら駿河!自分で連れてきなさいといつも言っていますでしょう!」 「あ、カーリーおはよー」 「誰がカーリーですか!」 おじちゃんの言葉を遮って、カーリーは思ったより早く来た。そんでいきなりおじちゃんの横腹に豪快なキック。気絶。普段通り半端なくやり方が荒い。カーリーはものすごいダッシュで来たらしく、おかっぱから出てる長い襟足は乱れてるしお気に入りの補佐官服を着ていない。寝起きなのに長に使われたんだろうな、補佐官も大変だ。まあ長に命かけてるカーリーなら何の苦でもないような気がするけど むすっとした顔で俺の下敷きになっているおじちゃんをひっつかんだカーリーは、面倒くさそうに最上階へとつながるエレベーターに乗り込んだ。 「駿河、スパイが見つかった以上狙撃班はあてになりませんわ。外の組織が何か仕掛けてきたらお願いしますよ、大きな武器を持っていますからね」 「…へーい」 二度寝はどうやら出来ないらしい。気絶したおじちゃんの顔とエスカレーターの扉が閉まるのを見送って、そのまま後ろにある銀色の柵に寄りかかった。途端、砲撃の音。俺は静かに神経を集中させた 巨乳派とか貧乳派とか、 そんなもので繋がってることだってある |