「どっうわああああ」 「うっさいわリューネ!」 「だってこれ!蜘蛛の巣が顔にかかった!気持ち悪!」 「はっ」 「え、嘲笑うの?何その目つき!サイなんか犬のうんこでも踏めばいいのに」 ―9 屋敷に入ったら南国の景色が広がっていた。トロピカル。室内にヤシの木って何?蜘蛛の巣と格闘しながらすすんでいけば今度は熱帯雨林が登場した。ジャングル。室内にマングースって何?……マングース? 「どっうわああああ」 「二回目!」 「マングース出てきたあああ」 「…や、後ろにライオンもおるで」 「何ここ意味わかんね!死ぬ!死ぬ!」 とりあえず、この屋敷がもう俺たちの知る駿河をまったく残していないことは分かった。ていうか屋敷じゃない。いくら広くったって室内にライオンなんか飼っちゃいけません!パンダにしときなさい! 四方八方からこんもり登場する動物たちは、ジャングル仕様の暗い屋敷のせいでいつどこから来るか予測出来ない上に三頭ずつとか出てくる。まともに逃げることなんか出来ないから、俺たちのまわりの時間を最小限の範囲で止めつつ一気に走り抜ける。元自分の家じゃなきゃ当たり前だけど階段の場所なんて分からなかった。駿河家をまんまアジトにしてくれてありが、 「…だよねー」 「………ねー」 階段を上がりきったと思ったら床が抜けた。うんそうだよねそんな阿呆なわけないよね簡単に行くわけないよね 「リューネ」 「…はいよー」 このまま真っ逆様に落ちて死ぬなんてごめんだ。さっきから時間止めまくって疲れてるけど、俺は仕方なく自分たちに流れる時間を遅くした。若干十七歳、まだ死にたくはない。こういうシチュエーションだと下に針山でもあんのかと思ってたが意外、明るい場所に降りた。……部屋? 「これはこれは、いきなりメインディッシュの時間か?」 「メインディッシュ?わたあめ?」 「なんでやねん!空気読め阿呆、オールバックがかっこようセリフ決めたんやからそっとしとかなあかんやろ」 「なんでやねんとか言えばちょっと面白いとか思ってんなよ!」 「思ってへんわ!いきなりなんやてかつっこむとこおかしくね」 明るさに目が慣れると同時に、イスに座って偉そうにしてるオールバックが浮かんできた。オールバックの後ろには気だるそうにした男と気だるそうにした女…の子 「…なに、僕らの組織ってこんな意味わかんない二人にやられたわけ」 「殺す?」 きょとん、とした丸い目の女の子がすんげー速さで斬りかかってきた。びっくり。最近の女の子って怖いね、え?いや別にユーラを思い出したとかそんなわけじゃないよ!まさかね!それにしてもサイが相棒の小刀で対応してくれなかったら、俺は今頃スパンと真っ二つ……あっぶね 「動き鈍っとるやん、だからはじめにそんな使うたらあかん言うたのに」 「…てへー」 女の子とサイが刀伝いで力勝負をしているところに、オールバックがつかつかと歩いてきた。女の子は平然とした顔でぎりぎりとサイを押す。真顔。 「話者の存在を理解する人間が自分たちだけだと思うなよ、駿桐の末裔」 「…あんたが、あんときの生き残り?」 「そ。俺と、あいつ」 あいつ、と親指を指した方向には気だるそうな男。オールバックがサイとにらみ合ってる女の子に「下がれ」と声をかけると、彼女は素直に従った。生き残りがその二人なら、一体彼女は何者なんだろうか 「それはそうと桐原の末裔くん」 「…なんや」 「さっき、どうして駿河を護った?」 「そりゃ一応仲間やからなあ」 「その前からだ、お前ずっとそいつの半歩前に出てんじゃねえか」 「…………」 「駿桐同盟は事実上消滅した、お前が駿河を護る義務はないはずじゃねえのか?桐原はやっと同盟から解放されたんだ、それなのになぜ駿河を護る」 オールバックがピストルを抜いて、凄まじい速さで弾を放った。力が使えるほど俺は元気じゃなかったのに弾が当たらなかったのは、もちろんサイが光の速さで払い落としたからに他ならない 「駿河を護ったんやない、そこのわたあめ野郎を護ったんや」 今日はサイに助けられまくってるなあ。なんか悪口言われた気もするけど今回は俺の宇宙のように広い心でもって許してやる。喜べ帰ったらお好み焼きでも焼いてやろう 「分からねえな、光の」 「しゃーないねん、それがオレの血」 サイの短刀は電気を帯びていた 「…本能や」 生き残りと生き残り |