ver.天童








「ねーねー苗字ちゃん!お昼学食にたべにいこうよーん」

『……えー。やだよ。去年も天童目当てにめっちゃファンが集まってチョコ渡し合戦始まってたじゃん。つかれる。』



白鳥沢学園高校バレー部

牛島若利を筆頭としバレンタインとなると、部員を見かけるだけで、昼ごはん中であろうがチョコレートお渡し祭りが始まるのだ。

それは天童も例外でなくどこにいたって、たとえ隣に幼馴染がいたとしても関係ないのだ

そんな様子を毎年見ているのだから正直勘弁して欲しいところなのだけれど……

『学食行きたいなら牛島くんといけばいーじゃん。』

「えーやだよー。特に今日は」

『えー。なんでよ。なんでわざわざ「天童くーん。コレ良かったら食べてー。「あたしも、あたしもー」」
「あらま、いっぱい」

『……。』

「ぷふ。やっぱりその顔たまんないよねー。俺がもらう時だけ機嫌わるくなるもんねー。ねぇ……どうしたら機嫌直してくれるのかなぁ?」




すごい角度で顔をのぞき込むもんだから一瞬ドキリとしたけれど、毎年こうやってバレンタインデーにからかわれるのだから気が気ではないし、面白くない。

『……だったら静かなところで食べるならいい』

「あらま、そんなんでいーの?じゃいこ」





売店に行く道中も女子に話しかけられているのはつづいており、「いまは持ちきれないから机の上に置いといてーっ」なんて言っている。
教室に戻ったらまた例のごとく山のようにチョコが積まれているんだろうなと思うと思わず溜息が出た。







とりあえず食糧を確保出き、使っていない空き教室に入ることにした







それは一瞬の出来事だった

私が机の上に座った瞬間机に両手をついて目線を同じにして凝視されている

『え……なに?ごはんたべないの?』

「……なんで毎年バレンタインに苗字ちゃん連れ回してるかわかる?」

『……サイコパスだから』

「えーっ!その反応はびっくりー!いやそうじゃなくてー……」

『じゃあなんなの?』

「……毎年苗字ちゃんが俺を好きなのか確かめるため。」

『なにそれ?』

「……だってさ、ちっちゃい頃は覚って呼んでくれたのに、高校上がったら急に苗字で呼ぶんだもん。俺だってそれなりに気づくよ」

『……っ、それはなんてゆーか』

「……なに?こっち向いて言ってよ」

『……っ、い、わない』

「昔っから頑固だよねー笑。……ねぇ名前。目瞑って顔上げて?」

『……っ!や、やだよ。』

「……いいから」



一瞬の衝撃と、想像とは違う感触に恥ずかしさがこみ上げてくる

動揺しすぎて状況が理解できなかった







「……キス、されると思ったでしょー?残念ながらチョコレートでしたー」

『…………』

「……ね?機嫌直った?ちなみにーいまキスしたらどんな味がするのかな?」

『…………いいよ』

「ん?」

『だ、だからいいって…………っ』





全身の力が抜けていく
身体中が熱で覆われていく
チョコレートの甘い匂いと柔軟剤の匂いに包まれて
呼吸することさえいまはうっとおしい
絡めた指から熱情を帯びていく




「…………好きだよ。名前。意地悪してごめんね?」

『……うーっ!ずるい!……もう……あたしの方がずっと好きだったし!ばか。』

「……いえーい!逆チョコ作戦大成功だねーっ!」

『もうっ!雰囲気ぶち壊し!……なんかもう気が狂いそう』

「刺激的すぎた?」

『……っ、ばか』







今はただこの余韻に浸って酔いしれていたい

無情にも鳴ってしまったチャイムをこれほど恨んだことはなくただ満足そうな顔をした彼をずっと見つめていたいと

そう思った












おわり
ひとまずバレンタイン企画終了です。
読んでいただきありがとうございました。


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