「君がため をしからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな」 裏山で穏やかにひなたぼっこしていたら、隣に座っていた孫兵が呟いた。そちらを向くと、ふわりと笑って俺を見る。 「いきなりなんだ?」 「和歌。藤原義孝が源保光の娘へ詠んだものだよ。聞き覚えないかい?百人一首にもなってるんだけど」 「俺が分かるわけないだろ」 そう言うと、そいつは「だろうな」と言ってまた笑った。 俺としては、そんなものはやることがないので耳にも入らない。和歌なんて忍には不必要なものだと思っているので尚更だ。 「その歌はね、共感できるってこともあってわりと気に入ってるんだ」 「共感?」 「そう。 いつ死んでもいいと思っていた 君に会うまでは 君に会えた今 いつまでも君といられたらと ぼくは願っている 作兵衛と会うまでは、忍として生きていつでも死んでもいいように生きてきた。でも作兵衛と出会えた今は、いつまでもこうして二人でいたいと願ってる。ね、同じだろ」 思わず、ぽかんとしてしまう。 「………馬鹿だな」 「馬鹿かもね」 「そう思ったって、俺らは忍だろ」 「思うのは自由だろう」 まぁ、そうだけど。 別に俺だって、思わないわけではない。ただ、自分が目指すものにそんな感情は必要ないと、そう教えられているから。 「これを詠んだ義孝はね、結局二十一で没してるんだよ」 「へぇ」 「いつまでも、なんて、所詮は絵空事でしかないんだね」 そう呟いた声がすごく寂しそうで俺は孫兵を見上げる。孫兵は、やはり寂しそうに笑っていて、俺は思わず孫兵を抱きしめた。 君がため、 (『いつか』が来るまで、ずっと傍にいるから) (そんな泣きそうな顔すんなよ) 某超約百人一首マンガを読んでがーっと書いて放置していたもの。孫富のつもりで書いたんだけど富松さんのがかっけーですね。でも孫富です |