「富松は、僕のこと好きかい」





朝食時、目の前に座る学友に突然そう尋ねられ、俺の動きは一時停止した。いや、正確に言うと俺達の動きは、だ。

「おま…お前は、いきなり…」
「さくべーはー!私たちのことのが好きだぞ!!」
「ちょ、さも」
「そーだそーだ!俺らの作ちゃん孫兵なんかに渡さないからな!」
「…………」

固まっていた両隣の左門と三之助が堰を切ったように喚きだす。こうなると一発殴ってやらねえと止まらない。やめろお前ら先輩どころか後輩にまで笑われてんぞ此処何処だと思ってんだ。
そういった意味も含めて、席を立ち乗り出しながら孫兵に喚く迷子二人に鉄拳を食らわせてやる。

「うるせぇ。行儀わりい」
「「………ごめんなさい」」

一度冷静になれば大人しくなるのは、三年もこいつらと一緒にいれば十分承知していることだし慣れっこだ(それに早めに静かにさせないと礼儀作法に煩い三年の作法委員が恐ろしい形相で怒りだすし)。

「はは、富松は珍獣使いみたいだね」
「伊賀崎…お前なぁ……」

事の発端はお前だぞ、とは言わない。目の前のこいつがこういった奴だってことも、三年のうちに慣れてしまったことだから。










「しかし、僕のこと好き、かー」

委員会活動として壊れた篭を直しながら、朝の出来事を思い返す。
毒虫や危険な生き物にばかり興味を示すような奴がいきなりなんだと言うんだ。俺、あいつになんかしてたのかな。
心ここにあらず、といった風に手を動かす俺に真面目にやれと怒鳴る人はいない。戦うことが大好きな六年の先輩は、一年を連れて壊れた壁の修補に向かっているから。ようは俺は留守番ってことなんだけど。

「うーん…伊賀崎かぁ……」
「僕が何?」
「わぁ!?い、伊賀崎!」

ぼそっと呟いた一言に返事がきたことに驚いて、更にその主が丁度思考にあった張本人でまた驚いた。思わず手に持っていたものを落とすくらいには。

「わー折角直してた篭が!」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫…。つかいきなり現れんなよ…びびった…」
「ふふ、悪気はなかったんだけど」

板が折れてしまった修補中の篭はまた代えの板を用意して直すことにしよう。とりあえず今は、こいつに真意を聞かなければ気が済まない。

「まぁいい。ちょい伊賀崎、ここ座ってくんねえ?」
「ん?」
「朝のあの質問、あれ何だ?」
「朝の…?あぁあれか」

そう言うと、伊賀崎は何かを思い出すようにふふっと笑った。

「富松は、僕のこと好きかい」
「だからそれ、」
「僕はね、僕やお前が思っている以上にお前のこと好きみたいでね」
「……………は?」

一瞬、言われたことが理解できなかった。何だよそれ。しかもお前、お前や俺が思っている以上にって。
かーっと熱が顔に集まるのを感じた。

「なっばっ、おま…!」
「ははは、可愛いとこあるな、富松」
「伊賀崎っ!」

からかうよいに笑う伊賀崎に思わず怒鳴ると、急に伊賀崎が真面目な顔をして俺を見る。その真剣な視線に思わず口を閉ざしてしまった。

「僕は今まであまり人というものに興味がなかったんだけどね。何故か最近よく視界に入る奴がいるんだ」
「視界、に」
「そう。それが富松、お前」
「…俺?」
「最初は疑問でしかなかったんだけど、とりあえず観察してみようと思ってね。朝食のときや迷子を探して駆け回っているとき、委員会とかで後輩の面倒を見てるとき。そしたら何で視界に入る理由に気付いたんだ。僕は富松に興味をもって、好意を抱いてることに。…………富松?」

すらすらと伊賀崎の口から出てくる言葉に俺は完全に固まっていた。脳内の処理能力がうまく機能してくれない。

「んー、まぁつまり、富松のことが好きだから目で追ってたってことだね」
「!!?」
「だからつい、富松が僕のことどう思ってるのか聞いちゃったってわけ」

分かった?とにこやかに笑う目の前の奴に対し、理解してしまった俺は最早ゆでタコ状態だった。
こいつは、何でこう恥ずかしげもなくこんなこと言えるんだよ…!
あわあわして頭を抱えてる俺のそばで、くすりと笑う気配がした。見上げると伊賀崎が困ったように笑ってる。

「別に無理に答えを求めてる訳じゃないから、深く考えなくてもいいよ」
「いがさ」
「そろそろジュンコ達の世話しに行かなきゃ。邪魔したね」
「まっ…!」

立ち上がりその場を去ろうとした伊賀崎の腕を思わず掴んでしまう。そして、言葉に出来ないからその手で意思表示。

「………ちょっとは期待してもいいってことかい?」
「……知らね」







言葉の代わりに絡めた指
(好きって意思表示?)(……嫌いでは、ねえ)





バッと浮かんでパッと書いたら二人とも誰てめになりました。おかしいな






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