紅葉が終わり、頬に当たる空気がピシリと冷たく感じるようになった。
作兵衛は授業が終わると急ぎ足で委員会の活動が行われる用具倉庫へと向かっていた。

「(うー…さみぃ)」

これと言って急ぐような用事もないのだが、寒さを紛らわすために無意識に足が速く動く。今日の委員会は何をするのだったか、そんな事を考えながら足を進めていると、用具倉庫の前に佇む人影が見えた。
己が身につけているのと同様の萌黄の装束を纏っている。

「…伊賀崎?」

同級で、他の組の物でもなにかとつるむ事の多い、い組の伊賀崎孫兵だった。孫兵は人気のない用具倉庫の前で何かを抱えながら立っているようだった。

「伊賀崎!」
「…やぁ富松」

大きめの声で呼びかけて駆け寄ると、作兵衛に気付いた孫兵がそちらを向いて微笑む。良く見ると、孫兵の手には小さめの檻のようなものがある。作兵衛は目の前の孫兵が何故ここに居るのかを瞬時に理解し、苦笑した。

「また壊したのか」
「壊す気はないんだけどね。頼めるかい?」
「ちょっと見てもいいか?」

了承を得てから、作兵衛は孫兵から壊れた檻を受け取った。おそらく孫兵のペット同然である生物委員会の毒蛇のものであるそれは、じっくり見ると木で出来た柵が2本ほど折れている。

「これくらいならすぐ直るな」
「じゃあ任せてもいいかい」
「俺で良いなら。先輩もまだ来てないし今やるよ」

そう言って作兵衛は用具倉庫から柵と同じくらいの木材と、工具を持ってきた。そして慣れた手つきで修理を始める。孫兵は静かにそれを眺めていた。
半刻も経たないうちに、檻は元のように戻っていた。少しだけ色の違う柵が、しっかり修理されている事を物語っている。

「こんなもんか」
「すごいね、元通りだ」
「この委員会にいるとこれくらい嫌でも慣れるからな」
「でも、それをものに出来るのは富松の才能だろう」

そう微笑んだ孫兵は、寒さで少し赤くなっている作兵衛の手をとった。

「……伊賀崎?」
「富松の手は、魔法の手だね」

ちゅ、と、孫兵が作兵衛の手の甲に軽く口づける。それがあまりに自然な動きだったので、作兵衛は数秒固まってしまった。

「っ?!」
「…ふふ、顔真っ赤だよ」
「なっ、ば…!誰のせいだ!!」
「僕のせいかな?」

何をされたのか理解した作兵衛はすぐに手を引いたが、真っ赤になった顔を指摘され、さらに赤く染める。それを見て嬉しそうに笑う孫兵は、再び作兵衛の手をとり今度はその手にはぁ、と温かな息を吹き掛けて握りしめた。

「な、に」
「寒そうだったから。こうするとあったかいだろう」
「……恥ずかしい奴」








寒い日は

(いつでも温めてあげるよ)
(ばーか)








そんな二人を、後から来た用具委員長が青ざめた顔で見ていたのは、また別のお話。












白夜様リクエストの、甘々な孫富でした。
池富or孫富とのことでしたが独断で孫富にしちゃいました。申し訳ありません。私はお互いを名字で呼び合うそこそこ仲良いくらいな関係の孫富が好みです(聞いてない)
お持ち帰り、苦情、書き直し申請は白夜様のみでお願いします







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