「いーけだー」

明日の筆記試験のために復習をしている僕の耳に、まだ声変わりをしていない聞き慣れた声が入ってきた。

「いーけーだー」

普段はぎゃんぎゃん怒鳴っていたり、皮肉や偉そうな事しかでてこないその口が、少し甘めの音で僕の名前を呼ぶ。いつもなら僕に傷をつくるその手は、僕の背中を人差し指で軽くつつくだけ。


「さぶろーじー」
「…はい」
「ろじ」
「……はい、何ですか富松先輩」

それまでだんまりを決め込んでいた僕が返事をすると、少し嬉しそうに声色が上がって愛称が呼ばれた。

「呼んでみただけ」
「………」

…な、なんだこの可愛い生き物…。付き合い始めてからも周囲には犬猿だとか言われるけど、実は二人だけになるとこの人も大人しくなる。素直じゃないのは変わらないけど…ここまで甘えたなのは滅多にない事だ。むしろ初めてじゃないか?正直可愛すぎて心臓がもちそうにない。

「…俺、うるせぇか?邪魔になってる?」
「いや!…全然。そこまで余裕ないわけじゃないし」

それよりも、もっと一緒にいたい。

「なにそれ、むかつく」

そう言いつつも、先輩が笑ったのが気配で分かった。そして僕の背中に自分の額をこつんとぶつけてくる。そのままぐりぐりとこすりつけられて、若干くすぐったい。

「アンタ、今日どうしたんだ?」
「別に」
「何かあった?」
「別にー」

拗ねてる風でも、機嫌が悪いようでもない。何か良い事でもあったんだろうと勝手に決めこんで、目の前の教科書に視線を戻した。その間、先輩は額をこすりつけたり僕の髪の毛をほどいていじってみたり、好き勝手動いてる。

「ろじー」
「……」
「ろーじー。ろじー」
「はいはい」
「……好きだ」
「!?」

小さくて聞き取りにくかったけど、い、今、先輩が、好き、って…!?

「な、なななな…っ」
「はは、お前顔真っ赤じゃねーか」

誰のせいだと…!てゆーかなんでいきなり!なんか今日のこいつおかしくないか?!

「あ、アンタほんと今日どうしたんだ!」
「別に、好きな奴に甘えたくなんのはおかしい事じゃねーだろ」

好きな…!
何だろう、僕は今日ここで地球が滅亡してもいいと思ってしまうほど、幸せだ。例えこれがどっきりとか先輩が偽物だとしても。



「僕もアンタが大好きだ!!」



翌日の筆記試験は、満点でした。








どうしようかわいすぎる

(たまには甘えたっていいだろ)







森様リクエストの、「たまにはいちゃつく池富」でした。
最早富松がだれてめ状態です。富松さんが池田にぎゅうぎゅうくっついてるいちゃらぶ可愛いじゃないと書き出して撃沈しました。
書き直し要請いつでも受け付けております。リクエストありがとうございました!





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