少年は完結されていた。
自分と他人との線引きは明確であり、領域を踏み荒らす者は容赦なく潰す。少年の世界は、自分と自分の半身である毒蛇、その他の心許した動物たちだけで構成されていた。

けれど、人の中で生きていく為には表面だけでもある程度交わらなければならない。煩わしいことこの上ないが仕方なかった。結果、笑顔を作ることを覚えた。そうすれば誰も深入りしてこない。
自分が何を思っているか知らず、表面だけの笑顔に騙される人間たちを、内心で嘲笑っていた。




「おい」
「何だい?」
条件反射のように、口元に笑みを浮かべて振り返る。目の前に自分と同色の制服を纏った少年が立っていた。彼は確か、三年ろ組の富松昨兵衛。
何か用かともう一度にこり微笑めば、不機嫌そうに眉間にしわが刻まれる。
「それ、止めろ」
「…それって?」
「嘘くさい笑い方しやがって。気持ち悪い」
「な…っ」
驚き、目を見開く。この笑みに騙されない奴もこんな風に言ってくる人間も、今まで誰一人としていなかったのに。
言葉を失い立ち尽くす自分を、彼はまっすぐに見つめてくる。射抜くような、視線。

「笑いたくないのに、笑うんじゃねぇ」

言い放ち、日の当たる廊下を去っていく。
翻る赤銅の髪が脳裏に鮮やかに焼き付いて。

完成された世界が、壊れる音を聞いた気がした。




 あの言葉が引っかかる。小さな棘のように、大した痛みはなくとも気になって仕方がない。
 彼と再び顔を合わせたのは、あれから数日後のことだった。 
「お前でもそんな顔するんだな」
縁側に座ってジュンコと日向ぼっこをしていると、唐突に背後から話しかけられた。振り返れば予想通り、富松作兵衛が立っている。
「何が?」
特に何もしていない。…相手が彼なので、あのときのような無意味な笑顔を作ってもいない。ただ、ジュンコと二人きりで時間を過ごしていただけだ。
かけられた言葉の意味が理解できず、どういうことかと視線で問えば、頭の後ろで手を組み、にかりと笑ってこちらを見下ろす彼と目が合った。
日に照らされた赤銅の髪がきらきらと光る。眩しいのは太陽のせいか、それとも。

「すげぇ優しい顔してたぞ、お前。そっちの方が断然いい」
「…っ」

あのときとはまるで違う優しい表情で、ぽん、と軽く頭を撫でられる。そのまま、じゃあなと後ろ向きに手を振って遠ざかる後ろ姿。

ざわりと、胸が騒ぐ。彼の何気ない言葉で。
撫でられた髪にそっと触れた途端、じわりと頬が熱を帯びた。
耳鳴りが止まない。
酷く息苦しい。
この気持ちは、何。

「なんでだろう、ジュンコ。…すごく、苦しいよ」

砕け散った世界の破片が、愛を知らぬ少年の胸に柔らかく突き刺さる。
完結されていた世界が、ほんの僅か変化したのだと。
彼がそのことに気付くのは、まだ先の話。





毒蛇の恋
(世界の終わりと恋の始まり)




コンセプトは「冷たく人間嫌いな毒蛇が、あたたかな手をもつ一人の少年に恋をする」でした。S孫様どこいった…。ぜ、前半がちょっとブラックというかS孫様かなと!広い心で読んでやってください!(土下座
相互リンク、相互フォローありがとうございます!これからもどうぞよろしくお願いしますううううう。

2011年2月26日
あきと 






ゆきほたるのあきと様から頂きました!
Sな孫兵様とか無理難題を押し付けてしまったにもかかわらずなんたる孫様…素敵すぎてもう……孫富好き好き!
ありがとうございました!!!



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