作兵衛がいない。
気付いたのはもう宵の刻。作兵衛の布団を挟んだ向かいでは左門が熟睡している。今起きている者といえばきっと六年生や五年生だろう(四年の先輩達が夜更かしするとは思ない)。

「作兵衛?」

呼びかけても返事はなかった。
寒露をすぎて肌寒くなったこの時期のこの刻に布団からでるのはあまりしたくないけど、厠にしては戻りの遅い作兵衛が気になって布団から這い出した。

「さむっ…」

流石に寝まきだけじゃ寒かったようだ。
ふるりと震える身体を両手で抱えて擦りながら足を進める。どの部屋も静まり返って、皆がすでに寝ていることが分かった。
作兵衛はどこだろう。この寒いのに羽織るものも持たないで出ているようだ、どこかで凍えてなければいいけど。

「………っ」

ふと、微かだけど声が聞こえた気がした。

「作兵衛?」
「…っ!」

作兵衛だ。気配のするほうに向かうと、人が滅多に通らないであろう隅の方で蹲る作兵衛を見つけた。寝まきのまま、丸まって肩を抱えカタカタと震えながら泣く作兵衛がいた。誰にも悟られないように、静かに泣く。

「な、で…三之、助……」
「作兵衛がいなかったから」

そう言って俺は震える作兵衛を力を込めて思いっきり抱きしめた。
苦しそうな声がしてバタバタと暴れだした作兵衛をものともせず、大人しくなるまでずっと。いや、大人しくなったからって離してなんかやらない。なんで誰もいないところで泣くんだ。俺が、いや俺達がいるのに。

「苦しい、さんのすけ」
「うるさい。作のばか」
「…なんで俺がばかなんだよ」

抵抗がなくなって静かになったから少し抱きしめる力を緩めてやると、軽く息をつく音がした。

「ねえ作兵衛、俺達のこと嫌い?」
「は?な訳ねーだろ」
「じゃあなんでこんなとこでこんな刻に一人で泣いてんの。作の話なら俺達なんだって聞くのに。寂しいじゃん、こんなの」
「…………」

捲し立てるみたいに言ってしまうと作兵衛が黙り込んでしまう。
でも、作兵衛。作兵衛が弱いとこ見せるの嫌いなの知ってるけど、俺はそんな作兵衛も見たいと思うんだよね。だって仲間だろ?一人で抱え込んでたら辛いだろ?いつだって作の隣には俺達がいるのに。

「別に、お前らに頼りたくねえわけじゃねーよ…」
「うん」「でもさ、ほら…なんかカッコわりぃじゃん」
「…そうか?」
「…俺にとっては!」

そう作兵衛が言って少し間があいて、俺達は自然と笑ってた。
ああ、作にはやっぱ笑ってる方が似合うなぁなんて考えてたら作が立ち上がろうとしてんのが分かって俺は抱きしめてた腕を漸く離した。
んー、と軽く伸びをしてる作兵衛をじーっと見てると不意に腕を出される。

「?」
「ほら、手。戻ろうぜ」

そう笑った作兵衛が、夜なのに酷く眩しく見えた。



「作ー」
「ん?」
「今度泣きたくなったらいつでも言ってね。俺の胸貸してやるから」
「………気が向いたらな」



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