負けたくない奴がいる。 ひとつ上の先輩。先輩なんて思ったことないけど。 負けたくない。でも実力差があるのは事実。だから特訓するんだ。毎日毎日、誰にもばれないように。 だって言えるか?い組のエリートだって言われる俺が三年ごときに勝つために必死こいて特訓してましたなんて。否、言えるわけがない。ださすぎるだろ! なのに、 「なんでだ!」 「何がだよ」 まさか、まさかまさか! 同級生より下級生より他の先輩より、なによりもばれたくない奴にばれるとか!嘘だろそんなの! 「っかし馬鹿だな」 「るせぇ!」 「普通、こんな崖から落ちて手ぇ怪我するか?だっせぇ」 んなこと俺が一番分かってるんだよ。 そもそもあれだ、けしてこれは俺のせいだけじゃない。俺が崖登りしてたとこにこいつがいきなり出てきたのが悪い。そんで焦って落ちたんだ。俺のせいだけじゃない。 『なにしてんだよ!危ねぇだろーがっ』 落ちた俺を見てこいつが発した言葉。 そのまま走り寄って、血まみれの手をとって真剣な顔して。んで今にいたる。 自分の忍服の袖を破いて応急処置、といったふうに止血して。伏せ目がちなこいつを見つめて、うわ、意外と睫毛長いんだ、とかくだらないこと考えた。 つかなんだ、あんま考えたくもないけど…もしかして心配、とかしてんのか?こいつが? 「…何黙り込んでんだよ」 「……富松、心配とか、してたりすんのか」 「っ…!?な、わけねえだろ!!頭沸いてんじゃねーの?!」 ………真っ赤になったこいつ、初めて見たかもしれない。うわ、自分でも顔がほてってきたのが分かる。 つーか、普段なら「先輩つけろ」だとか「敬語つかえ」だとか騒ぐ奴がそんなことにも気付かないで顔真っ赤にしてたら信憑性も何もないだろ。 「………案外優しいんですね、富松先輩?」 「…っ!!」 ニヤリと笑ってわざとらしく敬語を使ってやったら、眉間に皺よせて睨んできた。あ、なんか優越感。 「ふぅん」 「んだよ!」 「なんでもないですよー」 「っそ、なんだよ!悪いかよ心配したら!怪我してる奴心配しないほうがおかしいだろ!!」 「いや、あんた俺のこと気に食わないだろ、鼻で笑われて流されると思ったから」 そう言ったら、富松ははっと目を見開いた。んですぐに立ち上がって踵を返す。 「え、ちょ、おい!」 「………なよ」 「は?」 「なんでもねぇよ!後は自分でなんとかしろ!」 そのまま走り去ってしまった。 結局最後にあいつが呟いた言葉は聞こえずじまいだったけど。 好きなくせに馬鹿みたい (また憎まれ口で終わっちまった!) (これチャンスだったよな?) (うあー俺の馬鹿!) 素敵企画「心配ないよ!」様へ提出作品 なんかこー…もだもだする池田にしたかったのに思わず富松先輩が照れちゃったのでイケイケ池田になりました。無念´` |