三之助の前から逃げ出した翌日、俺は数馬のもとを訪ねた。 正直、予想はしていた。きっと数馬も俺のことが分からない。変な顔されるってことが。 「三反田数馬、いるか」 少し声が震えた。理解しているのと目の当たりにするのでは違う。だけど僅かな可能性にかけたかった。 「三反田数馬は僕だけど」 「いきなり悪い。お前、俺のこと知ってるか?」 訝しげな表情をした数馬を見て実感した。やっぱり分からないのだと。 「いや、何でもない。悪かったな」 無理矢理作り笑いを浮かべて背を向ける。ああくそ、これはかなりきつい。わかっちゃいたけど。 後ろで数馬が困ってるのが気配だけでも分かった。大丈夫だ、もう極力関わらないから。おかしな奴だと思われるのはもうウンザリだ。 不意に、声がかかった。 「あんた、名前は?」 数馬の声じゃない。 声のする方へ顔を向け、思わず目を見開いた。三之助。なんでお前が。 きょとんとしていた数馬も、「そうだよ名前教えて?」と聞いてくる。二人の視線が俺を捕らえる。 「……なんで」 「気になるから」 「いきなり自分のこと知ってるかって聞かれるんだ、興味もわくさ」 「…………」 どうすればいいんだろう。 でも、ここで名乗っても、新しくできた友人のように接する二人に俺は堪えられるのか。や、多分無理だ。だったら最初から関わらないほうがいい。いないと思ってた方が幾分か気が楽だ。 「………俺の事なんか、知らなくていい」 その時の俺の表情は、多分すごく酷いものだったんだと思う。 |