「作兵衛!!」

まだ陽も昇りきっていない早朝、作兵衛は泣き声まじりの叫びで起こされる。その叫びの発生源は作兵衛の名を連呼し部屋に乗り込んできた。

「作兵衛作兵衛作兵衛!!ジュンコが、ジュンコがいないんださくべー!!」

そのはた迷惑な奴は部屋に乗り込んできた上にまだ夢の世界から覚醒しきっていない作兵衛にまたがり寝巻きの合わせを掴んで揺さぶってくる。

「起きろ作兵衛!ジュンコがー!!!」
「ま、まっ、まご、へ」
「ジュンコー!!!」
「おっ、おちつけ、まごっ」

ぺしり、小さな音がして侵入者の動きが止まった。音は作兵衛が自分に跨がっている人物の頬を軽く叩いたもの。叩かれた人物―孫兵はキョトンと作兵衛を見下ろしていた。

「またジュンコが脱走したのか?探してやるからとりあえずどいてくれ」
「さくべぇ…」
「あーもう泣くなよー。いつも通りきちんと帰ってくるさ、な?」

そう作兵衛が孫兵の頭を撫でて慰めると孫兵は小さく頷き作兵衛の上からどく。しかし着替えようと立ち上がった作兵衛の後をついてまわり、側から離れようとしない。作兵衛は作兵衛でそんな孫兵を自然のように振る舞い気にするそぶりを全く見せなかった。

「よし、んじゃ行くぞ孫」
「ん」

着替え終えた作兵衛はすぐ後ろに立っていた孫兵を振り返り手を取る。そして騒ぎで起こされた同室の迷子達に一声かけて出ていった。










寝ぼけ眼で作兵衛達を見送った迷子達も、漸く頭が覚醒し始める。

「なー三之助」
「んー?」
「いつも思うんだが何故孫兵は自分のペットが居なくなると一目散に作兵衛のとこまで来るんだ?」
「さぁ?でも作と孫兵って普段は仲悪いよなー。名前でなんか呼び合わないのに」
「お互い名字呼びだからな。………あーゆー時だけ作兵衛を孫兵に取られた気分だ」
「………俺も」




20100505




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