(『不覚にもときめきました』の続きのような話) 食堂での話。 「あ、池田」 「げ、富松…センパイ」 ガヤガヤとざわめく食堂で、作兵衛と三郎次は出くわした。と言うよりも、席について学友達と食事をとっていた三郎次の近くに作兵衛が来ただけなのだが。 ちなみに二人が会うのは、三郎次が迷子二人の情報を与えて作兵衛に礼を言われたあの一件以来である。 「富松先輩こんにちは」 「こんにちは」 「川西と能勢、ちは」 にっ、と人の良さそうな笑顔で左近と久作に挨拶した作兵衛は膳を三郎次の目の前の席に置いて座る。 「なっ…んで、ここに座んだ、座るんですか」 「何処で食べようが俺の勝手だろ」 そうだけど、だからって此処じゃなくても、内心呟いた三郎次だったが食堂を見回すと空いてる席は殆どないことに気付いた。そしてついでのように気付いた事が。 「………今日は、一緒じゃないんですか」 「んあ?」 「あぁ、次屋先輩と神崎先輩一緒じゃないんですね」 ご飯を書き込みながら作兵衛が三郎次を見ると、左近も三之助と左門が居ないことに気付いた。 普段だったら二人が居ないと大騒ぎする作兵衛が大人しく一人で食堂に居る。常を考えれば不思議なことだ。 「あー、委員会。今日は責任もってあいつらの先輩が届けてくれるみたいだから」 「今はお役目ごめん、ですか」 「そゆこと。肩の荷がおりるよ。いつもこうだったら良いのになぁ」 そう苦笑しつつ左近や久作と談笑する作兵衛を見ながら、三郎次は先日のことを思い出した。 お礼を言って自分に手を振るムカつく先輩。しかも満面の笑顔で。そして今目の前で喧嘩もしないで談笑している。いつもならあり得ないのに。 考えに耽っていると名前を呼ばれた。 「池田」 「っはい」 「こないだはありがとうな。ほんと助かった。あの後すぐに見付けられたわ」 「それは、良かった、です」 三郎次は自分の顔が赤くなっていくのが分かった。それを左近が横でニヤニヤと見ていることも。 羞恥に追いやられ、とりあえず目の前の膳を高速で片付ける。1分としないうちに片付いた膳を持ち立ち上がった。 「ご馳走さまでした!」 そう言ってばたばたと走り去ってしまった。左近のけらけらと笑う声を聞きながら。 残された作兵衛はぽかんとその一部始終を見守るだけだった。 「なんだったんだ、あいつ…」 加速する衝動 (心臓がうるさい) (あいつの笑顔が眩しいとか、) (嘘だろそんなの!) 20100327 |