「留三郎!」 「仙蔵、また何か考えたのか?」 「あぁ、今回も自信作だ」 「さすが仙蔵だなぁ」 「お前のその手があってこそだよ」 「そーか?へへ」 「ふふ」 「食満用具委員長!」 下級生特有の少し高めの声に呼ばれてはっと目の前に意識を戻す。三年の用具委員である富松作兵衛が心配そうに俺を見上げていた。 「気分が優れないのですか?」 「いや大丈夫だ。心配かけて悪かったな」 そう言ってぽんぽんと作兵衛の頭を撫でてやると、少し恥ずかしそうだがほっとした表情になる。 「では作業に戻りますね」 ぺこりとお辞儀をして去る作兵衛の背を見送りながら苦笑する。委員会中にボーッとするなんで委員長失格だ。それもこれも全て、手元にある古びたぐしゃぐしゃの紙を見つけてしまったせいなのだが。 その紙には細かく何かの設計図が書き込まれている。今より崩れてはいるものの整った神経質なその字は、俺の同級の現作法委員会委員長こと六年い組立花仙蔵のものだ。仙蔵が三年の頃に書いたもの。何故俺がそれを知っているのかと問われれば、俺も三年の頃にこの設計図を何度も何度も見返したから。 『またこれも文次郎に?』 『当たり前だろう。あいつほど反応の面白い奴はいないからな』 『それはただお前が文次郎からかうのが好きなだけだろ?』 『そうとも言う』 顔を見合わせて笑いあう、まだ下級生の頃の俺と仙蔵。からくりを考える仙蔵と、手元の器用さを利用して仙蔵が考えたからくりを作る俺。その被害にあうのは文次郎だったり他の生徒だったり。一年の頃から四年にあがるまで、俺と仙蔵は所謂゛からくりコンビ゛だったわけだ。教師や先輩によく怒られていた。 それでも、四年になってすぐに俺は初めて委員会に後輩ができて、可愛がっていたその子に怪我をさせたくなくて、それを機にからくりを作ることがなくなっていた。その時に大量の設計図たちもどこかへしまい込んで忘れていたのだが。 「まさか今見つけるとはなぁ」 「何がだ?」 背後で声がして振り向く。 そこには立花仙蔵の姿があった。 「仙蔵!」 「先日頼んでおいたものを取りに来たんだが」 そう言われて、数日前に仙蔵から化粧道具箱を直してほしいと頼まれていた事を思い出した。 「あぁ出来てるぞ。ちょっと待ってろ」 「何を見つけたんだ?」 踵をかえして箱を取りに行こうとしたら問い掛けられる。 個人的には蒸し返したくないことだ。しかも同じ当事者の仙蔵には。今思うと結構恥ずかしいんだ、あの記憶は。 「いや、なんでも」 「何を見つけたんだ?」 ごまかそうと思ったけど再び同じことを問われる。あぁ、聞き出すまで許してはくれないようだ。 仕方ないと諦めて、俺は手元の紙を仙蔵に差し出す。 「これは…ふふ、随分と懐かしいものを見つけたな」 「俺は出来れば見つけたくなかったよ…」 「そうか?私はあの頃が一番楽しかったよ」 その言葉に仙蔵を見上げると、悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。昔、よく見ていた表情、俺の好きな表情だ。 「久しぶりに文次郎をからかってやるか、留三郎」 「え、」 「何、後輩が危なかったらお前が助けてやれば良い話だろう。それとも自信がないか?」 挑戦的な発言が俺の闘争心に火をつけた。 そうだ、あの頃とは違う。俺は今、最上級生なんだ。後輩守るくらい朝飯前。 「ははっ、上等だ仙蔵!」 「お前はそうでないとな」 元祖からくりコンビ、復活ということで。 君と手をとり (やっぱ一緒にいると、落ち着く)(ふふ、私もだ) オチが…何が書きたかったのかいまいちですね。 ただ二人が昔からくりコンビだったらいいのにって思っただけです。書きかけ放置だったのを時間が経ってから書き上げるとろくなものが出来ませんね。 私的には仙食満のつもりです |