フシギノセカイ
少女が目を開くと、そこは赤と白の世界だった。
横に長い回廊のような道に、赤と白のコントラストが真っすぐと目の回るほど続く。
回廊の終わりは遠すぎるためか見えない。後ろを振り向くと、壁一面に巨大な鏡があるだけだった。
少女は何気なしに鏡に触れてみるが、一瞬想像した水面のようなものは表れず、無機質な冷たさが指を貫く。
(これは、夢?)
つい先程まで部屋にいた。鏡からウサギの耳の付いた男が現れた。つい鏡に手を伸ばし、目を開けたらここにいた。
朝ベッドの上で目を覚ましたと思っていたが、実はまだ夢の途中だったのだろうか。
少女は、力無く自分の頬をつねってみる。
「いたい」
つねってみたは良いが、はたしてこの痛みが現実である証になるのかは定かではなかった。
夢の中で自分の頬をつねってもやはり痛みはあるのだろうか?
アリスは頬から伝わる痛みを複雑な心境で受け止め、自分のいる場所をよく見回した。
音の無い世界だった。
風の動きさえなかった。
自分一人しかいないみたいだ、とアリスは思った。
これが夢ならば、なんて夢のない夢を見ているのだろう。まだ痛みのひかない頬をペチリと叩くと、アリスは終わりの見えない回廊の先へと進んだ。
(終わりの無い回廊なんてないわ。きっと出口があるはずよ)
周囲の景色は全く変わらない。ただ、赤と白に包まれた世界。
(夢はその人の深層心理と言われているけれど、ウサギ耳の人を思い付く私にこんなにつまらない世界を描けるはずがないわ)
ただ、アリスは歩き続けた。歩き続けた先に何があるかなど、分かるはずもなかった。
実は進んでなどいないのではないかと思えてくるほどに変化のない世界。
それでも、この回廊はどこか別の世界へと続くトンネルなのだという確信が、彼女にはあった。
根拠などまるでない。それは言わば自分との戦いだったのかもしれない。アリスは自分自身の想像力の先を知る為に歩き続けた。
「あった」
アリスは汗で霞む目で、延々と続いていた回廊の終わりを見つけた。
足は鈍りのように重たかったが、遠目に見えるものを確認するやいなや、それに走り寄った。
アリスが駆け寄った先にあったのは、壁一面に広がる巨大な扉だった。
鏡の対になるように存在する大きな扉。自分が小さな人間になってしまったかのようだ。
取っ手には、椅子などがあれば何とか届く高さだが、まず椅子の存在を確認していない。
アリスはためしにバレエを踊るかのような爪先立ちで取っ手に手をかけようとしたが、その手は虚しく空を切るだけだった。
ついでにその場で跳びはねてみるも、結果は同じだった。
(出口があるのに出られない……)
なら、その扉に一体何の存在意義がある?
アリスは仕方なく扉に背中を付け、座り込んだ。ここからどうしようもない、ここまで来た意味もない。
麻痺していた疲れがどっと押し寄せる。
(もう寝てしまおうか)
疲労感だけのたまる、つまらない夢だった。
ここで寝たら、きっと現実世界の私が目を覚ます。
そしたらいつも通りママにおはようを言って、おいしい朝ごはんを食べよう。
その日の晩にはもっと面白い夢が見られますように。
アリスが本格的に眠りに就こうと背中に体重を預けた瞬間、扉の下が大きく開いた。
「な、なにっ?」
この扉は取っ手を用いると見せかけて、下を押せば簡単に開く騙し扉であったのだなどとわかるはずもなく、アリスは体重に任せて扉の先・・・・・・
全てを飲み込むかのような深い闇へと落ちていった。
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