lullaby


 ねんねんころり おころりよ

 それはママの歌う優しい調べ

 あたしが小さかったとき

 よく歌ってくれたっけ


 朝の目覚めは快調。なんだか懐かしい故郷の夢を見た気がした。ママが歌ってくれたあの調べは、一体何だったかしら。

「おはようアリスっ、僕らと遊ぼうよ!」
「おはようアリスっ、僕らで遊ぼうよ!」

 今一人暮しをさせてもらっている三月の家から帽子屋亭に向かう途中で、あたしは双子に出会った。

 あたしにとっては、ここで会うのは偶然だけど、彼らにとってはそれが必然なんだろう。

 きっとあたしが家から出て来るまで、森で待っていただろうから。

「良いわよ、双子さん。今日は何して遊ぶ?」

 あたしは彼らのけなげさがちょっと嬉しくて、思わずはにかみながら答えた。

 騒がしい日常に透き通る爽やかな風。時間を忘れて我を忘れながら、でもカエリミチを見失う事なく、あたしたちはそこで遊んだ。

************

「僕らは、随分遊んだね」
「僕らは、随分遊んだよ」

 双子がふわ〜っとあくびをした。あら、ちょっとかわいらしい。

「アリス、少し休もうよ!」
「アリス、少し座ろうよ!」

 双りは、そう言ってあたしに座りの良さそうな木陰を譲ってくれた。そのまま双りはあたしの左右にしゃがみ込む。

「僕らは、疲れたね。アリス」
「僕らは、眠たいね。アリス」

「そうね」

 あくびをみか殺しながら言う双りに手を延ばして、あたしは双りの頭を肩にもたれ掛からせた。双りの体重が、軽く平等に両肩に掛かる。

「すこし、お休みしようか」

 そう言って、あたしは歌を歌った。

 ねんねんころり おころりよ

 それはママの歌ってた優しい調べ。あたしが小さかったとき、よく歌ってくれた歌。

 あたしは故郷を思い出しながら、ママを思い出しながら、歌った。

「そのお歌、聴いたことあるよ・・・・・・。何だろう、むかし過ぎてわからないよ」
「その調べ、聴いたことあるよ・・・・・・。何だろう、懐かし過ぎてわからないよ」

 双子は寂しそうにそう言って、急に静かになった。

「あら?」

 あの騒がしい双子が黙ってしまい、あたしはちょっと慌てる。でも両肩が動かせなくて、双子の顔も見れないし・・・・・・。

「うっわー! 何でお前がここにいんだよ!」

 急に声がして振り向くと、あたしの目の前に立っていたのは、クルクルヘアーのマシンガントーカー。

「眠りネズミ! あなたこそ、何してんの?」

「お前には関係ねー!」

 ふいっと横を向いた彼の手には籠がある。中には色とりどりの木の実が入っていた。なるほど。

「木の実採集かぁ。また美味しいクッキー焼いてね!」

「もし焼いてもぜってーお前にはやらねぇ! もしくは今日見つけたこの渋い木の実を使ってやる!」

 いつも大音量の彼だけど、なんだか心持ち声が小さい気がする。そう思っていると、彼はあたしの左右の双子に目を向けた。

「しっかし、めずらしいよなー。あの騒がしい双子がこんな顔して寝てんなんてさ」

 えっ? あたしは眠りネズミを見た。

「寝てるの? 双りとも?」

「ああもう爆睡。口開けてよだれ垂らして寝てんぞ。お前の、なんか眠たくなる変な歌だったもんなー」

「き、聴いてたなーっ」

 あたしは恥ずかしくって、でも動けないまま眠りネズミを睨んだ。

 あ。

 そして思い出す。

「そういえばこの歌、いつもあたしが眠れないときにママが歌ってくれた歌だったわ」

 ふうん、眠りネズミが興味なさそうに言う。

「その曲の名は?」

 何だか心地良い調べ。心安らぐ曲。安心を誘うこの歌の名は・・・・・・

「ララバイ」

************

 いつも三月ウサギの家にいるアリスが、昼を過ぎても家に戻らなかった。
 昼に出掛けた眠りネズミも、夕方になっても帰ってこない。

 心配は全くもってしていないが、散歩がてら探しに出掛けた三月ウサギは、森の中に見慣れた四つの人影を見つけた。

 近付いた三月ウサギは思わずくすり、と笑ってしまう。

 木にもたれ掛かって座る一人の少女に寄り添うのは、双りの左右対照なこどもの姿。
 そして、その三人の前で横たわるいつも眉を吊り上げている少年の無邪気な顔。

 四人の共通点は、もう大分薄くなっている木の陰に隠れながら、クークースースーと寝息を立てていることだった。

「どこにいるかと思いきりや、夢の世界にいるとはねぇ。午後とはいえまだ陽は出てるし、風邪ひくこともないでしょ」

 四人を見守る位置にしゃがみ込んだ三月ウサギは、満面の笑みを浮かべた。

「いい夢を」












End.


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