鮮やかに恋 ( 1 / 5 )
「じゃ、後でな」
「うん。さんきゅ、先生」
うちの学校は、昇降口の真ん前が先生たちの駐車場になっている。だけど、さすがにそこで俺が下りるのはちょっと、ってことで校門のそばで下ろしてもらった。
ばたん、と助手席のドアを閉め、先生の車が転回するのを見届けてから、校門をくぐる。
すると、朝練のある部活に所属しない生徒だろう、彼らからたくさんの視線を浴びた。
…そりゃ、全寮制の学校の生徒が、外から登校してきたら、驚くよな。
特に気にはせず、足を進める。俺としては、朝練に出れなかったことの方が気にかかってしょうがなかった。
寮を飛び出した昨日、当然の如く先生の家で一夜を明かした。
今までウジウジグジグジしていたのが嘘のように、何もかもが吹っ切れたような気持ちである。今なら嵐さんにだって勝てそう。言うだけならタダだ。
…しかし、問題点がひとつ。
「しょ、彰太!」
すると、聞き慣れた声がした。しかしそれは何故か、妙に上擦っている。
「あ、翔、はよっす」
「え、ちょ、なに、なんなの、彰太」
俺は普段通りに軽く言うけど、明らかに翔は挙動不審。
…まあ、無理もないな。
翔には申し訳ないけど、先生のことは何も言ってなかったし、このリアクションは当たり前か。
「『見ての通りです』って感じ」
ここまで来たら、変に隠すのもアレなので、素直に打ち明けた。翔は驚きを隠せない、って感じのカオ。
「…え、なに、そんな、え、初めて聞いたし…」
「だって言ってないし」
…ああ、やっぱり。
前々から、神野さんや嵐さん雅紀さんへのリアクションに感じていた違和感は、どうやらニセモノではなかったようだ。
どこか冷めた頭で、視線を青空へ流す。
雲ひとつ、ない。
「…やっぱり、引く?」
そこに雲を浮かべるように。
吐き出した。
翔は、誰が見ても分かるくらいに、狼狽えてた。
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