濃紺に星 ( 1 / 3 )
…ピーン、ポーン。
チャイム音に紛れて、とく、とく、と鼓動が聞こえる。
それが自分の心音だと気付くのにも僅かに時間がかかった。
「………はい」
気だるげな声に一拍遅れて、待ちわびた彼が、顔を出す。
その彼が俺の姿を見つけた一瞬、彼の瞳が動いた気がした。
一瞬だけ。
「………何しに来た」
「話、しに来たんだよ」
どくん、どくん。
いつの間にか、心臓が騒がしくなっていた。
静まる気配は、ない。
「……寮は」
「知らない」
「………帰れ」
「帰らない」
門限まで、あともう少し。
今から戻ったって、どうせ間に合わない。
そう自分に言い聞かせて、強い口調で言い放った。
先生は何も言わない。
暫くの沈黙。
そして、バタンと、戸が閉まる─。
「…!」
「…閉めんなよ」
のを、右足を捩じ込んで止めた。
すぐ近くで、先生が目を丸くしてた。
「…先生、お願い」
その目を覗き込んで、言う。
だけど、すがるようなか細い声色になったのが、我ながら情けない。
はあ、と先生は深いため息をついた。
俺がスッと足を抜くと、先生は静かに戸を閉めた。しかし、鍵の閉まる音はしない。何も考えず、ドアを開け直し、そっと家に入る。
…沈黙は肯定、だ。
先生はソファーに腰かけて、俯いている。
自然と、まるで何度も来た事のあるかのように、テーブルを挟んで先生の向かい側に座った。
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