漆黒へ落下 ( 1 / 3 )
GWも終わり、実家へ帰省していた生徒たちが寮に戻ると、学び舎は元の賑やかな姿を取り戻していた。
…まったく、長いようで短かった連休だった。
まさに部活漬けの3日間。
ただ、バスケだけに集中する、3日間。
…の、ハズだったのに。
「えー、じゃあ問2の答を、掛井」
教室に気だるげな声が響く。
それを耳に入れながら、俺は窓の外へ視線を移した。
日を追う毎にだんだんとキツくなっていく日差しが眩しい。
『話しかけんな』
ふと。
合宿中の、先生の言葉が蘇る。
無表情な目、広く壁のような背中がありありと目に浮かんだ。
俺、何かしたっけ。ついこの間まで、教材室で、ちゅーとか、してたのに。仲良しのはずだったのに。
好き合ってた、はずなのに。
…好き?
「………っ、」
…好き、なの?
抱き合ったり、キスだってした。
付き合ってるつもりだった。
付き合う、イコール、好き、だと、当然のように思ってた。
けれど。
『いいんだろ?』
『…口が、寂しいんだ』
『頑張れよ』
彼の言葉に、好き、が、見つからない。
……キーン、コーン…
「はい、終わり」
チャイムの音に被る声に、はっと我に返った。周囲のクラスメートは既に、がたがたと席を立ち始めている。
「今日のプリントは放課後までに提出。辻本が集めて持って来い。以上」
そう淡々と告げると、先生はトレードマークの白衣を翻し、颯爽と教室を出ていった。
ガヤガヤ、クラス内は普段通り。教科書やノートもそのままに教室を出ていくヤツもいれば、ガリガリとプリントにペンを走らせるヤツもいる。
「…なーんか…藤高さん、変じゃね?」
背後から囁くようなハルの言葉の意味を、俺の身体は全く受け付けようとせず、その音だけが、鼓膜にこびりついて離れなかった。
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