桃色キス ( 1 / 3 )



「翔!次の時間、数学!俺、行ってきます!」

待ちに待った初仕事を遂行するときがやってきた。
その決意と気合いを込めて、ビシィッ、と兵隊さん顔負けの敬礼を翔に贈る。

「…何故そんなにやる気満々?」
「何事もやる気は大事!行ってくるっ!」

行ってらっしゃーい、と気のない返事を背に受けて、教室をあとにした。
翔も教科係の任命を受けたワケだけど、別にひとりで出来ないほど大変な仕事でもないので、俺ひとりで大丈夫、という旨を伝えていた。
チャイムの鳴る前でまだ騒がしい廊下を歩く。
階段を降りて階が変われば、笑い声が飛び交う中で、ちらほら、仲睦まじく腕を組んだり、顔を寄せ合っている人もいた。

…結構、オープンなんだなー。

それらを視界の端に入れつつ、ついに、職員室の前に降り立った。
意を決して、戸を引く。

「失礼しまー…す」

…う、おっ
入ってすぐ、目が合った。
わりと戸のすぐそばに、彼、藤高先生の席はあった。

「おせーよ」
「すっ、いません!」

…あちゃー。
しかしそうは言いながらも、先生の声に怒った感じはない。
先生は、机に山積みになったプリントの一番上の束を手に取った。

「これ、持ってって」
「はいっ!」

初任務遂行のときだ、と思って、張り切って返事。
…そしたら、笑われた。

「おま…張り切ってんなー…」
「はいっ」
「時間だし、俺も一緒に行くわ」
「はいっ」


…先生は今日も白衣を着てる。
ワイシャツは濃いブルーで、ネクタイはグレーの地に黒のストライプ。けっこうオシャレだ。
髪はちょっとボサついてて、焦げ茶、って感じ。
顎にはヒゲ。じょりじょりしそうな、短いやつ。

「…なに見てんの」

…はっ。
ふと我に返ると、ニヤついた先生がこっちを見てた。
そんなにじっと見てたかな、俺。

「せ、先生!なんで、先生は、白衣着てるんですか!?」
「似合うから」

苦し紛れの質問の答えを、迷うことなく先生は言い放った。
スパァーン!ってハリセンで叩かれた、みたいな。そこまで堂々とされると、逆に清々しい。
…やべ、面白いぞ。

「じゃっ、じゃあ、先生いくつなんですか!?」
「10万とんで26歳」
「…26歳ですか!?」
「10万とんで26歳。」

先生はどっかのド派手メイクのタレントみたいなことを言い出す。
…26歳、この見た目にしてはけっこう若い。




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